特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.432 2023年08月号

工学研究者を目指した
ターニングポイント

特集 04

廃水処理と水質測定技術の両輪で環境問題にアプローチ Approaching environmental issues through both wastewater treatment and water quality measurement technology

すぐに答えが出ないからこそ
研究は自由で面白い

環境工学部門 水再生工学研究室 助教
羽深 昭

[PROFILE]

出身高校
國學院大學久我山高等学校
研究分野
環境工学、衛生工学
研究テーマ
廃水からの資源回収、水質測定技術の開発

好きなことに打ち込むそれが「研究」だった

自然豊かな三宅島出身だということもあり、環境問題に興味があり、工学部の環境社会工学科に進学しました。もともと手を動かすことが好きで、実験自体が楽しかったことも研究者を目指した理由の一つです。研究の面白いところは、いわゆるテストの回答とは異なり、答えがわからない問いかけに自由にアプローチができるところ。もちろん苦労はありますが、新たなアイデアを形にしていく時の没入感や、努力して良い結果が得られた時の達成感や予期せぬ発見に心が躍ります。好きなこと・やりたいことを見つけ、それに打ち込む。私にとってはそれが「研究」でした。映画のような劇的な節目はなくとも、人生は分岐点の連続です。大学や学科、研究室、先生を選び、その先に何が待っているのかは皆さん次第。答えが出ていない道を歩く楽しさに、気づいてもらえたらと思っています。

膜分離技術で下水をきれいに川や湖のリン濃度も測定

川や湖、海をきれいな状態に保つには我々の生活で発生する下水をきれいにして放流する必要があります。有機物が多く含まれている下水汚泥は微生物の働きを利用することで、燃料として使用できるバイオガスを生産することができます。昨今の世界が直面するエネルギー問題の観点から、下水汚泥からのエネルギー生産はますます注目を集めています。その中でも、私は特に膜分離技術を活用した高速処理、水素ガスを利用したバイオメタネーションに取り組んでいます。

また、もう一つの研究テーマとして川や湖の中のリンをモニタリングするための新たな手法の開発にも取り組んでいます。リンは生物の成長に必要不可欠な栄養塩ですが、閉鎖性水域のリン濃度が高くなると富栄養状態となり、有害藻類の発生や水生生物の死滅、利水障害へとつながります。地球温暖化の影響により世界中の閉鎖性水域の富栄養化は進行すると予想されており、リンの高精度なモニタリング手法は水環境の評価と保全に必要不可欠です。このように環境工学で取り扱う問題は多岐に渡り、かつ複雑です。それゆえにやりがいがあり、夢中になれる研究分野だと確信しています。

図1 下水汚泥からバイオガスを生産するためのリアクター装置 Figure 1 : Biogas production reactors from sewage sludge
図2 結氷した河川における水質観測装置の設置 Figure 2 : Deployment of an equipment for water quality monitoring in a frozen river

Technical
term

バイオメタネーション
生物の反応によって二酸化炭素と水素をメタンに変換する技術。