特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.432 2023年08月号

工学研究者を目指した
ターニングポイント

特集 02

世界中が取り組む次世代エネルギーシステム開発への貢献 Contribution to the development of next generation energy systems

目の前の一つ一つに全力で
打ち込むほど学びは深まります

材料科学部門 機能材料学研究室 助教
岡 弘

[PROFILE]

出身高校
私立桐蔭学園高校
研究分野
材料科学、エネルギー材料
研究テーマ
原子力用構造材料の研究開発、核融合炉材料

札幌開催の国際会議で刺激的な経験が転機に

学部4年次から今の研究につながる原子炉用・核融合炉用材料の研究を始めました。研究活動とは、世界中でまだ誰も取り組んでいないテーマを探し、自分で実験計画を構築し、実際に自分の手を動かして実験を行い、データを学術論文にまとめて世の中に発表するというプロセスです。研究室に配属以降、それまでの、講義を受講するという受け身のプロセスとは異なる、非常に能動的な活動に没頭することができました。まさにこれをやるために自分は大学に進学したんだ、とさえ思えるようになりました。

そんな中、進路のターニングポイントとなったのは、修士1年の時に札幌で開かれた核融合材料に関する大規模な国際会議でした。北大は現地のホストとして研究室の学生はほぼ全員、研究発表を行い、会議の運営にも直接携わりました。当日、会場は海外から集まった多数の研究者の熱気にあふれ、まるで外国にいるかのよう(図1)。普段読んでいる英語の論文の著者たちが目の前にいて、一学生である自分の研究について興味をもって話を聞いてくれる。それが嬉しくて、こちらも拙い英語ながら一生懸命伝える。この強烈な体験が、研究職に進むターニングポイントになりました。

図1 札幌で開催された核融合炉材料国際会議の様子 Figure 1 : A scene at the international conference on fusion reactor materials held in Sapporo

人類の未来に直結する次世代エネルギーシステム

私が取り組んでいる研究は、次世代の原子炉や核融合炉に使用する耐久性に優れた構造材料を開発することです。炉内は高温かつ中性子照射による損傷が生じる過酷な環境です。そのような環境下でも優れた高温強度を維持し、損傷による劣化が生じにくい材料として、内部にナノスケールの粒子を高密度に分散させた合金の開発を行っています。より良い材料を開発するため、添加元素や製造方法の最適化を行い、強度の測定と内部組織の顕微鏡観察(図2)を通して強化機構の解明に取り組んでいます。高速炉や核融合炉などの次世代原子力エネルギーシステムは、人類に必要不可欠な技術として世界の主要な国々で研究されており、実現すれば私たちの生活に非常に大きなインパクトを与えるでしょう。ただし、技術確立までには長い年月と多大な努力が必要です。50年後・100年後を見据えた研究というのは非常に息の長い話ではありますが、その技術の重要性を思えば、大きなやりがいを感じます。

図2 材料の内部組織観察に使用する透過型電子顕微鏡 Figure 2 : Transmission electron microscope used for microstructural characterization of materials

Technical
term

核融合炉
核融合反応で発生するエネルギーを利用する発電炉。将来の発電方式として研究されている。