特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.432 2023年08月号

工学研究者を目指した
ターニングポイント

特集 03

興味の追及と挑戦 Pursuing my interests and challenging

日常生活を脅かす腰痛疾患に
工学の知見からアプローチ

機械・宇宙航空工学部門 マイクロバイオメカニクス研究室 特任助教
豊原 涼太

[PROFILE]

出身高校
私立関西大倉高等学校
研究分野
バイオメカニクス
研究テーマ
骨盤バイオメカニクスに基づく腰痛疾患の原因解明と治療法開発

学部3年で出会ったバイオメカニクス研究

私は小学1年生から少林寺拳法(武道)を続けており、関節運動や全身運動に興味を持っていました。ものづくりが好きで工学部に入学しましたが、ヒトの身体の動きへの興味が捨てきれずにいたところ、学部3年生の講義で初めて「バイオメカニクス」という学問領域に出会いました。工学部で学んできた機械工学の知見を活かして、医学・生物学の課題に取り組み、社会に貢献できる。私の興味と完全に一致している分野との出会いに興奮したことを覚えています。研究室に配属された時はちょうど腰痛疾患に関する共同研究が始まったばかり。具体的には「仙腸関節」と呼ばれる、骨盤内でわずか1mm程度の可動域しか持たない関節由来の腰痛の手術治療に関する研究から始まり、今もこのテーマを発展させながら研究を続けています(図1)。

図1 (上)骨盤内の仙腸関節、(下)骨盤の有限要素モデルと手術治療例 Figure 1 : (Top) Location of a sacroiliac joint. (Bottom) A finite element model of a pelvis and a surgical treatment.

気になることは全てトライ貴重なヒト検体の解剖経験

研究を始めた当初は、共同研究者である整形外科の臨床医が開発した手術治療法が既存の治療法と比べて効率的な治療成績を見込めるのかを工学的に評価していました。その後は、様々な治療法の力学環境の違いやわずかな可動域を持つ関節機能や関節運動にも興味が広がり、「なぜそうなるのだろう」「何が起こっているのだろう」と思ったことを黙々と研究して現在に至ります。修士時代には短期留学で共同研究者であるグラーツ医科大学の解剖学の先生を訪ねたところ、日本では専門の資格がないと執刀できないヒト献体の解剖という非常に貴重な経験をさせていただきました(図2)。この解剖経験から出てきたアイデアが、現在の研究につながっています。

これまで「知りたい・気になる・やってみたい」という気持ちに忠実に、やりたいことは何でも挑戦しようと留学や研究を進めてきましたが、実は高校時代はリスニングテストで鉛筆を転がすくらい英語が大の苦手科目。つたない英語でも実践あるのみで、なんとか言葉の壁を乗り越えてきました。研究に限らず、興味のあることを突き詰めていくと経験値が増え、世界もぐんと広がります。皆さんも臆さずに、気になることはどんどん挑戦してみてください。

図2 留学先のグラーツ市街 Figure 2 : A street of Graz.

Technical
term

仙腸関節
骨盤の骨である仙骨と腸骨の間にある関節。中腰での作業や不用意な動作、繰り返しの負荷で関節に不適合が生じると痛みが発生する。