特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.430 2022年12月号

異分野融合にみる工学の多様性と可能性

特集 05

機械工学の技術を医療現場に生かす Applying mechanical engineering technologies to the medical field

工学の成果で健康を支える
大きなやりがいを感じます

機械・宇宙航空工学部門 変形制御学研究室 助教
武田 量

[PROFILE]

出身高校
青森県立五所川原高等学校
研究分野
バイオメカニクス、ロボット工学
研究テーマ
靭帯の力学負荷条件と形状に基づいた膝関節シミュレータ、大動脈解離リスク評価のための流体-構造連成解析手法、加速度・角速度センサーを用いた歩行解析

膝と靭帯の構造や仕組みを機械工学でシミュレーション

膝関節は人体の中で最も負荷がかかる関節です。その安定性は主に複数の靭帯によって支えられています。そのためスポーツなどで膝に過負荷がかかり、靭帯が断裂した場合は膝関節が脱臼しやすくなり、変形性関節症の発症にも繋がります。靭帯は再生能力を持たないため、断裂した場合は人工靭帯や他の部位から組織移植する靭帯再建術が必要となります。現在、世界中で多数の靭帯再建術が行われていますが、実は靭帯が膝関節の安定性を支持するメカニズムはいまだ十分に解明されていません。

本研究室では材料力学試験と有限要素法を用いて靭帯と膝関節の構造や動き方を定量的に測定できるプラットフォームを開発しています(図1)。具体的には北大病院の整形外科から提供される臨床データを基に、膝関節と靭帯の連動性や手術前後の歩行状態をコンピューターシミュレーションすることで、靭帯断裂の要因特定や膝関節用サポーター設計の指標となるデータを速やかにフィードバックしています。

図1 医療画像と材料力学試験を基にした膝関節シミュレータ Figure 1 : Knee joint simulator based on medical images and material tests

構造解析と流体解析で大動脈解離の早期治療に貢献

高齢者や高血圧の人が多い日本で大動脈疾患は頻度の高い疾患であり、特に大動脈解離は要注意の病状です。大動脈解離とは大動脈内膜表面にできた裂け目から血液が中膜に入り込み、大動脈壁が剥がれる疾患です。解離した大動脈はのちに破裂し、短期間で死に至るリスクが高いため、血管壁が破裂したら直ちに手術を行う必要があります。

大動脈解離による死亡を防ぐには、血管径が拡大しそうな箇所や損傷を受けやすい箇所を早期に発見し、速やかに治療することが極めて重要です。しかし、現状では医療現場の多くで使われているCT画像だけでは血流が血管壁に及ぼす影響を即座に判断することは困難です。そこで我々は病院からの医療用画像(CT画像やMRI)を基に、構造解析と流体解析を駆使して血流・圧力・変位を数値化・可視化できるシミュレーションシステムを開発しています。これが完成すれば、医療現場での診断や治療方針の決定に役立ち、大動脈解離のリスク評価に繋がると期待されています(図2)。

図2 解離が発生した大動脈と健常な大動脈の解析結果比較 Figure 2 : Comparison of the analyzed results: dissected aorta vs. healthy aorta

Technical
term

有限要素法
全体像が把握しづらい無限の自由度を持つ連続体を、有限の要素に分割して計算する手法。