特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.430 2022年12月号

異分野融合にみる工学の多様性と可能性

特集 04

紙製分析装置×ICTで農業の課題に取り組む Paper-based devices and ICT to resolve agricultural issues

北海道農業にやさしい
ペーパーデバイスを開発

応用化学部門 マイクロシステム化学研究室 助教
石田 晃彦

[PROFILE]

出身高校
宮城県仙台第一高等学校
研究分野
分析化学
研究テーマ
実験室から持ち出せる超小型分析装置の開発

化学肥料を減らすための簡便・迅速・安価な検査技術

わが国の農業生産者の人口減少や高齢化、肥料問題などに対して工学はさまざまな側面から課題解決の役割を果たしています。すでに農作業の大幅な効率化を図るロボット技術や情報通信技術(ICT)が導入されていますが、その一方で過剰にまかれてきた化学肥料量を低減する課題解決はこれからです。過剰な肥料散布は作物の生育不良や農地の劣化、地下水や河川の環境汚染につながることから、国によって2030年までに20%削減することが求められています。さらに最近の国際情勢の影響で化学肥料の入手難や価格高騰が起き、肥料散布量の低減がより強く求められています。

この問題を解決するには土壌中養分の検査を農地の多点で行うことが不可欠です。従来は一定量の肥料が一律にまかれていましたが、同じ農地でも養分量のムラがあるため、養分量を場所ごとに把握して適正な量でまく必要があるからです。ただし、養分量の検査を検査機関に依頼すると費用や日数がかかるため、従来よりも大幅に安価で、生産者自身で調べられるほどに簡便かつ迅速な土壌検査技術が必要となります。

紙でできた分析装置×ICTでスマホ片手に土壌を診断

そこで私たちは、成分濃度を簡単で安価に測定できるペーパー分析デバイスを開発しています。この装置はろ紙でできていて、流路のパターンが印刷されています。試料を流路の端から導入すると、末端で発色します(図1・2)。流路の周囲ははっ水性インクで固められているため、流路にのみ毛管現象がはたらいて試料が自動的に流れます。発色は流路に組み込まれた試薬と試料の反応によるもので、流路のパターンや試薬を変えれば様々な成分を同時に分析することもできます。

また、専用アプリを入れたスマートフォンで発色部を撮影すると、画像解析により成分濃度を調べることができます。データはクラウドに保存され、AIの活用によりデータが増えるほど土壌診断の精度が向上します。現在、私たちはこの分析技術を活用してスマート土壌診断システム開発しています。他にも酪農家向けに乳牛の人工授精の成否(妊娠)を簡便かつ迅速に診断できるペーパー分析デバイスを開発し、北海道の基幹産業である農業を応援しています。

図1 紙を基材にした分析装置(ペーパー分析デバイス) Figure 1 : Paper-based analytical devices
図2 ペーパー分析デバイスのしくみ Figure 2 : Schematics of a paper-based analytical device

Technical
term

ペーパー分析デバイス
近年研究が進んでいる紙基材を用いた分析装置。ガラスやプラスチック基材より軽量で持ち運びしやすい利点がある。