特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.430 2022年12月号

異分野融合にみる工学の多様性と可能性

特集 02

「空間」から「場所」へ From “Space” to “Place”

人文科学と自然科学を融合し
総合知で築く「場所」デザイン

建築都市部門 都市地域デザイン学研究室 准教授
小篠 隆生

[PROFILE]

出身高校
東京都立九段高等学校
研究分野
都市デザイン、まちづくり、建築デザイン、キャンパス計画
研究テーマ
地域再生、拠点整備、持続的まちづくり、デザインガイドライン、サステイナブルキャンパス

均質な建築・都市から「場所」を取り戻す

私たちの社会は常に成長を目指してあらゆるものが前進してきました。建築や都市のデザインにおいても、「古くなった」「経済的に利用価値が低くなった」という理由だけで、建築はどんどん置き換わり、都市は変容していきました。そうすると必然的に、大都市にはどこも同じような高層ビルが林立し、均質で透明な空間が増えていったのです。

ところが、肝心の「成長」の源となる人口が減少の一途をたどる局面を迎えた現在、このような考え方は限界を迎えています。私たちが暮らす都市や建築空間には、もともと特別な意味を持った空間がたくさんあります。個人の思い出がつまったところや、長い時間をかけてつくられ、人々が価値観を共有して大事にしているところがあります。地理学ではそれを「場所」と呼んで、「個人や特定の集団によって特別な主観的意味を帯びた空間」と定義しています。住民の意識に残る、生活活動の主役となる「場所」こそが、本当は創らなければならないものだったのです。

文学部と連携し原点から考える「プロジェッタツィオーネ」

イタリア語に「プロジェッタツィオーネ」(progettazione)という言葉があります。直訳すると「プロジェクトを実践する行為やそのプロセス」という意味になり、デザインが国の財産であるとしているイタリアに、デザインという外来語が普及するまで使われていた言葉です。しかし、この言葉は今私たちが使っている「デザイン」とは違う意味を持っています。この言葉は「そもそも何をなすべきなのかという原点にまで遡って考えること」を意味しているのです。これを「場所」をどのようにつくるのかという問いに照らし合わせると、多様な専門領域と連携・協働して原点に立ち返って考え、創り出すことが必要であることが容易に想像できるでしょう。

私たちはこのような問題意識で、この3年間、文学部に協力し、ミュージアムを題材にその新たな役割や可能性を模索し、地域の文化・芸術人材へのリカレント教育の提供と、地域文化の担い手と関連諸分野の専門家がともに考える場の創出の支援に取り組んでいます。さらに今後は工学研究院と文学研究院が連携した新たなカリキュラムの設置も準備しています。芸術・デザインをめぐる複合的な知識やスキルを修得して、新たな社会で「場所」をリ・デザインできる人材の輩出を目指しています(図1)。

図1 デザイン教育カリキュラムイメージ Figure 1 : Curriculum image of design education

Technical
term

プロジェッタツィオーネ
小篠氏・小松尚氏の共著『「地区の家」と「屋根のある広場」―イタリア発・公共建築のつくりかた』(鹿島出版会)に詳しい。