特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.426 2021年08月号

宇宙ミッションと工学

特集 05

大気圏突入技術で新しい世界への扉を開く Open the new world by Innovative Atmospheric-entry technology

自分のアイデアで
見たことがない世界を見よう!

宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系
准教授  
機械・宇宙航空工学部門 宇宙探査工学講座
客員准教授
山田 和彦

[PROFILE]

出身高校
愛知県一宮高等学校
研究分野
高速空気力学、高エンタルピー空気力学、EDL(突入・減速・着陸)技術
研究テーマ
展開型大気圏突入機、超高速再突入カプセル

柔らかい素材で宇宙から帰還?次代型大気圏突入機を開発

2020年12月6日早朝に小惑星「リュウグウ」のサンプルを搭載した「はやぶさ2」の再突入カプセルが大気圏に突入して無事、地球に帰還しました。持ち帰ったサンプルを詳細に分析することで、太陽系の起源や生命の起源の解明に迫ると期待されています。「はやぶさ2」から遡ること10年前には、小惑星「イトカワ」のサンプルを回収した「はやぶさ」により、サンプルリターンカプセル(SRC)の存在が一躍注目されるようになりました。SRCが無事帰還できたように宇宙開発において大気のある天体に突入・減速・着陸するEDL(Entry Descent Landing)技術は、非常に重要視されています。私が現在取り組んでいる研究は、そのEDL技術の中でも「たたんで開くことができる柔らかい大気圏突入機」の開発です。大気圏突入の際に空力加熱を受ける部分であるエアロシェルに柔らかい布素材を使うことで、高温耐熱材料を使う従来型とは異なる新たな選択肢を増やそうとしています(図1)。

図1 展開型のやわらかい大気圏突入機による地球帰還機の概念図 Figure 1 : Conceptual image of the inflatable and flexible re-entry vehicle.

惑星探査の応用にも期待宇宙空間で実証実験も

柔軟エアロシェルカプセルの本体を取り囲む黄色い部分は、柔らかい布でできています。円周にあたる浮き輪状の部分にガスを入れることによって大きく展開し、この形状を保ったまま大気圏に突入することができます。ガスを抜くと小さくたたむことができるため、ロケットの隙間にも搭載することができます(図2)。この技術が実現すれば、手軽に宇宙から帰還できる、あるいは惑星着陸探査に応用して大きな探査機ではたどり着けないような場所にも行けるようになるかもしれません。

大気圏突入機は地上設備では完全に再現できない極限の環境にさらされるため、実験室や計算機の中の実験だけでなく、実際の飛行試験が重要です。そこで我々は実際に実験機を開発し、気球やロケット、超小型衛星を使って宇宙空間での技術実証試験を行っています。宇宙開発にはその技術が地上にいる研究者の手を離れた後、本物の宇宙でどんなはたらきを見せてくれるかを固唾を飲んで見守る興奮と感動が待っています。この新しい大気圏突入機が実現したあかつきには、どんな世界を我々に見せてくれるのか楽しみです。

図2 2012年に実施した観測ロケットによる大気圏突入実験用の実験機(左:展開後の実験機、右:収納状態の実験機) Figure 2 : Experimental vehicle for reentry demonstration using sounding rocket.(left : deployed configuration,right : packed configuration)

Technical
term

エアロシェル
宇宙機が大気圏突入時に受ける熱(空力加熱)と圧力(空力荷重)から機体を保護し、
空気力により突入速度を遅くする熱シールドシェルのこと。