特集・研究紹介

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先駆的な技術を発信します。

No.426 2021年08月号

宇宙ミッションと工学

特集 02

誰もが簡単に使える超小型衛星の熱設計法を確立したい Thermal design method for microsatellite for everyone to use easily

「期待に応えられた」充足感で前進
宇宙での活動を守る熱設計

機械・宇宙航空工学部門 マイクロエネルギーシステム研究室
教授
戸谷 剛

[PROFILE]

出身高校
千葉県立船橋高等学校
研究分野
宇宙工学、伝熱工学
研究テーマ
超小型衛星の熱設計、超小型衛星用蓄熱材、放射エネルギーの波長制御

砂漠より暑く、南極より寒い過酷な宇宙空間での熱制御

皆さんは、宇宙は暑いと思いますか?それとも寒いと思いますか?実はどちらも正解です。宇宙では太陽光が当たる部分は100℃に、太陽光が当たらない部分は-150℃になることがあります。砂漠より暑く、南極より寒い宇宙は、地上よりもはるかに寒暖差が大きい環境です。

私たちが快適と感じる温度範囲があるように、人工衛星にも快適に動作する許容温度範囲があります。衛星の温度を許容温度範囲内にとどめるには「熱設計」が必要です。熱設計は、衛星が吸収する太陽光(直達光+地球での反射光)と地球からの赤外線の量を、衛星自身が宇宙に出す赤外線の量と許容温度範囲内でバランスするようにコントロールします。衛星の表面の色(太陽光吸収率と赤外線放射率)の選択、断熱材や熱伝導シートの使用、ヒーターやラジエータの設置等で、全ての搭載機器が許容温度範囲内になるように設計します。

超小型衛星の課題を見据え実証実験でデータを収集

熱設計の中でも私の研究は、大きさ1m以下・質量100 kg以下の超小型衛星を対象にしています。超小型衛星は中・大型衛星と比べて質量が小さく、熱容量(質量×比熱)も小さいため、軌道上で温度が変わりやすい特徴があります。搭載できる太陽電池も中・大型衛星より小型になり、ヒーターなどの温度を制御する機器に使える電力が少ないという課題を抱えています。

そこで、私たちは以下の2つの熱設計方針を提案しています。吸収した熱量を衛星全体に分散させて温度変動を少なくする方針Aと、変動の大きい外部からの熱入力を衛星の内部構造に極力伝えないようにする方針Bです。Bの案は2014年11月6日に打ち上げられた「ほどよし1号機」(図1)に採用され、搭載機器を許容温度範囲内に収めることに成功しました。また、私たちは衛星の温度が許容温度範囲を超えそうな時に温度上昇を抑える蓄熱材の研究にも取り組んでいます。2014年6月20日に打ち上げた「ほどよし4号機」で実証実験をした結果、宇宙で2500回以上の蓄熱・放熱を確認することができました(図2)。一人1台超小型衛星を所有できる未来を目指して、熱の課題を解決したいと思っています。

図1 超小型衛星ほどよし1号機 ©株式会社アクセルスペース Figure 1 : Hodoyoshi-1 microsatellite ©Axelspace Corporation
図2 超小型衛星ほどよし4号機と搭載した蓄熱材(黄色の部分) Figure 2 : Hodoyoshi-4 microsatellite and heat storage material mounted on Hodoyoshi-4

Technical
term

許容温度範囲
搭載機器によって異なるが、バッテリーの許容温度範囲0℃〜40℃が最も狭いことが多い。