特集 05
日本古来の“すだれ”状の補強材でインフラ老朽化対策に挑む Challenge for the aging problem of infrastructure by using a strengthening material in the form of ancient Japanese Sudare
和の暮らしに着想を得て
社会のインフラを守る新技術
土木工学部門 維持管理システム工学研究室
准教授
松本 浩嗣
すだれ状の炭素繊維補強材「ストランドシート」
皆さんは、実家や飲食店などで“すだれ”を使っている場面を見たことがありますか。細い竹やアシなどで構成されるすだれは、古くから日よけや目隠しに使われ、日光を遮る一方で風通しが良いという優れた特徴を持っています。この「風通しの良さ」をヒントに開発された、構造物の老朽化対策に役立つ補強材、それがすだれ状の炭素繊維補強材「ストランドシート」です(図1)。
現在、世界各地で老朽化した構造物の安全性を回復することを目的に、様々な材料を構造物の表面に接着して補強する手法が開発されています。しかし、どんなに強度が高い材料を使っても、表面から剥がれてしまっては意味がありません。補強材自体の性能を高めるだけでなく、補強材を構造物にいかに強く接着するか、ということが重要な課題になっています。
一般に、板状やシート状の炭素繊維補強材は樹脂を用いて構造物の表面に接着します。これを風通しの良いすだれ状の形にすることで、より早く、より確実に補強材内部に樹脂が浸透し、構造物の表面との一体化が進み、高い接着強度を得ることができます。
企業との共同研究が進行中
最新のNSM工法でより効果的に
我々の研究室と建設会社、補強材メーカーとの共同研究では、このストランドシートを最新のNear Surface Mounted (NSM)工法に用いることを検討しています。補強する側のコンクリート表面に溝を掘削し、ストランドシートを埋め込み、樹脂を充填するという方法です。板状の炭素繊維補強材を用いる従来の方法よりも、高い補強効果が確認されています。
無数の車両が通行する橋桁などの構造物は、繰り返し荷重がかかることで損傷が徐々に進み、やがて壊れることがあります。そこで本研究では、構造物が50~100年間という長期にわたって使われることを想定して、NSM工法で補強した鉄筋コンクリート桁に数百万回の荷重をかける疲労載荷試験も行っています(図2)。この工法で接着したストランドシートは繰り返し荷重を受けても剥がれにくく、構造物の延命化に効果的であることが明らかになっています。
Technical
term
- 炭素繊維
- 炭素を含んだ合成繊維を高温で焼いて作る繊維。軽くて強い性質を持ち、ラケットや釣り竿などのスポーツ用品や航空機などに幅広く活用されている。