特集 03
ナノテク材料をローテクで Nano-tech Materials through Low-tech
応用化学の他分野からも刺激を受け
社会の進化に貢献できる基礎研究を
応用化学部門 材料化学工学研究室
教授
向井 紳
1世紀かけて確立されたカーボンナノチューブ製造法
皆さんは、カーボンナノチューブ(CNT)という、径が1億分の1m(10nm)程度の繊維状の炭素について聞いたことがあるかと思います。導電性や強度を上げるために様々な材料に混ぜて使われており、車の安全性や充電式電池の性能を向上させるナノテク材料です。そのルーツは意外にも古く、製造法の原理が130年前くらいに発見され、そこから100年近くをかけてようやく製造法が確立されました。
その製造法とは金属超微粒子を触媒にしてベンゼン等の炭化水素の蒸気から直接CNTを造る方法です。厄介なことに、このとき触媒である微粒子が特定のサイズでなければCNTを造ることができず、その調製は大変な工程となります。適切なサイズの微粒子は、1,000℃以上の高温で一生懸命働いて繊維を造ってくれますが、そのような高温では原料自体が分解してなくなってしまうため、温度も原料濃度も抑え気味にして何とかCNTを製造している現状です。したがって生産性がどうしても低くなり、値段も高くなってしまうという課題を抱えています。
ローテクを導入した新技術原料中の炭素の9割をCNTに
我々の研究グループでは、適切なサイズの微粒子を製造装置内で一気に大量に発生させることができる方法を開発しました。それは、製造原理が発見された当時からあるローテク、“ピストンを使って液状の原料を高温の装置に一気に導入する”手法を組み合わせてはじめて実現できた方法です。これで発生させた微粒子は従来の百倍以上の働きをし、高温下でも原料が分解してしまう前にCNTに変換させることが可能になります。さらに全ての条件が整えば、原料に含まれる炭素の9割近くをCNTに変換することができます。また混合油や廃油等からも高効率にCNTを製造できるため、こうした量産体制が実現すれば、CNTの価格を劇的に下げることも期待できます。
この技術で製造したCNTは非常に長いのも特徴です(図1)。その長さを活かし、フェルトのようなシートにすることもできます(図2)。最近このシートがリチウムイオン電池に代わることが期待されている次世代充電式電池「リチウム空気電池」の電極に使えそうだということが分かり、現在その実用化を目指しています。
Technical
term
- カーボンナノチューブ(CNT)
- 炭素原子が規則正しく配列し、チューブ状の構造をしている。電気特性や熱伝導性が高いなどの特徴を持つ。