特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.424 2020年12月号

未来の社会に
貢献する材料研究

特集 04

未来の電池:空気電池 Materials for next-generation air battery

電気化学、触媒研究に強い
北大の系譜に連なる最先端研究

応用化学部門 界面電子化学研究室
教授
幅﨑 浩樹

[PROFILE]

出身高校
北海道函館中部高等学校
研究分野
材料電気化学
研究テーマ
電気化学エネルギー変換・貯蔵

リチウムイオン電池に代わる次世代電池の開発

2019年のノーベル化学賞の対象にもなったリチウムイオン二次電池は、スマートフォンから電子自動車まで幅広く利用されており、これなしでは現代社会は成立しないといってもよいほど、身近で重要なものになっています。ただ、今後電気自動車等にさらにリチウムイオン二次電池を普及させていくには、エネルギー密度が足りないことがネックになっています。一回給油すれば約500km走行できるガソリン車と同様の距離を、リチウムイオン二次電池の電気自動車を一度の充電で走らせることは難しく、リチウムイオン二次電池に代わる高エネルギー密度の次世代電池の研究開発に、世界中の研究者がしのぎを削っています。

一方で、地球温暖化対策に太陽電池や風力発電などの再生可能エネルギーの有効利用が叫ばれ、その導入が進んでいます。北海道も風力やバイオマスなどの再生可能エネルギー基地として期待されていますが、再生可能エネルギーの出力は天候次第。安定した出力を維持するには、天候に左右されない大型二次電池の開発が必要です。

キーワードは「空気」再生可能エネルギーの活用にも

そこで現在、注目されている高エネルギー密度の次世代二次電池が「金属‐空気電池」です。「空気極」とも言われる正極での反応に大気中の酸素を使うため、電池の内部に反応物を蓄えておく必要がなく、エネルギー密度が高くなることで電池の小型軽量化も可能になります。空気極では放電時に酸素を水に変え(酸素還元)、充電時にはその水を酸素に戻す(酸素発生)反応が起こります(図1)。ただ、この酸素還元・酸素発生反応が遅いのが課題であり、当研究室ではアルカリ電解液を用いた安全な亜鉛‐空気電池の材料研究を進めています。空気極で使える安価で高活性・高耐久性の触媒研究もその一つです。すでに世界最高水準の高活性を示す酸素還元電極触媒と酸素発生電極触媒を見出しており、両者の優れた特性を示す実用電極の開発を進めています(図2)。この酸素発生触媒は水電解で水素を安価に製造することもできるため、再生可能エネルギーを水素エネルギーに変換して貯蔵するのにも役立ちます。

図1 亜鉛‐空気二次電池のモデル図 Figure 1 : Schematic illustration of zinc-air secondary battery.
図2 酸素還元・酸素発生特性を評価する回転ディスク電極装置 Figure 2 : Rotating disk electrode apparatus for activity evaluation of oxygen reduction and oxygen evolution reactions.

Technical
term

エネルギー密度
電池の単位質量、または単位容積当たりに取り出せるエネルギー。