特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.424 2020年12月号

未来の社会に
貢献する材料研究

特集 01

微粒子インクを用いて低温で電気が流れる金属膜を作製したい Conductive metal film prepared using fine particle ink by very low temperature sintering

「まさか!」という夢を形に世界を変えるベーシックサイエンス

材料科学部門 先進材料ハイブリッド工学研究室
教授
米澤 徹

[PROFILE]

出身高校
学校法人辰馬育英会 甲陽学院高等学校
研究分野
ナノ材料、電子材料、電子顕微鏡
研究テーマ
新奇金属ナノ粒子、導電材料・電池材料の創製

電子部品製造に新時代印刷で導電性配線を描く

現在のものづくりの世界では、プラスチックなどの基板の上に導電性配線を描く場合、真空中で金属原子を発生させ基板に降り注がせる手法や基板を覆う金属薄膜をエッチングする手法が用いられています。ここに最先端のプリンテッドエレクトロニクスを用い、印刷・塗布によって導電性配線を形成できれば、大幅なコスト低減につながり、印刷できる対象も一気に拡大し、少量多品種生産も容易になります。

印刷・塗布に使う導電性インク・ペーストには金属微粒子を含ませ、導電性が発現する金属膜にする必要があります。そのため、焼成とよばれる高温処理を行いますが、薄くて柔らかいフレキシブル基板の上でこれを行うときは、金属の融点と比べて非常に低い150℃以下で焼成します。

金・銀よりも安価な銅に着目低温で原子が動ける環境に

印刷・塗布に使えるように金属微粒子を金属膜とするには、金属原子がそれぞれ独立して動きやすい状態にならなければなりません(紙の印刷用インクがダマにならずに、均一に塗布されるイメージです)。そこで私たちはその金属原子に金・銀よりも安価で手に入る銅を選択し、酸化抑制のために適切な大きさの有機分子で銅微粒子の表面を薄くコーティングして液体に分散しています。有機分子でコーティングされた金属粒子は150℃以下の低温で表面の有機分子が動き、露出した金属表面同士が接触し、金属原子が動いて、粒子同士をより太くつなげます。これをネッキングといいます。

ネッキングがうまく行われるには、金属微粒子が液体中に高濃度に分散していなくてはなりません。金属は有機溶媒に比べ比重が大きいため簡単には分散できないのですが、我々は有機分子に工夫をすることで分散を可能にし、さらに様々な大きさの粒子をつくることに成功しています(図1)。

こうしたたくさんの工夫を積み重ねて、低温で高い導電性をもつ金属被膜を作っています。今後は、プリンテッドエレクトロニクスの活用でウェアラブルデバイスなどもさらに発展するでしょう。有機トランジスタなどとあわせれば、すべて印刷だけで電子部品が作られる日も、そう遠くはないかもしれません。

図1 (a-d)粒子径を制御して合成した銅微粒子、(e)微粒子表面にコートされた有機分子膜、 (f)微粒子インク Figure 1 : (a-d) Size designed copper fine particles, (e) TEM image indicating the organic molecule coating, (f) Fine particle ink.

Technical
term

プリンテッドエレクトロニクス
印刷技術を活用して電子デバイスやその回路などを製造する技術