特集 02
分野の壁を越えて Trans-disciplinary research
異分野の研究室で新展開に一歩前進
自分の研究がもっと好きになりました
総合化学専攻 有機元素化学研究室 博士後期課程1年
小澤 友
研究は人類の知識を広げるもの
専門研究でぶつかる壁に直面
「研究とは人類の知識世界を広げることだ」とは、私が学部3年生のときに研究室説明会で聞いた有機元素化学研究室の伊藤肇先生の言葉です。これを聞いて感銘を受けた私は、伊藤先生が非常に教育熱心で、研究室の先輩たちもいきいきと高い次元で研究されている様子を知り、自分もここで学びたいという気持ちが固まりました。
私は現在、新規有機ホウ素化合物の開発というテーマで研究を行っています(図1)。有機ホウ素化合物は、北大出身の鈴木章先生が2010年にノーベル化学賞を受賞した「鈴木-宮浦クロスカップリング反応」の原料になる有用な物質です。まだ誰も見たことがない物質を自分の手で創ることができた瞬間は、とても心躍るものですが、しかし研究を続けていくうちに感じたのは、自分の視野がどんどん狭くなっているのではないかという疑問です。有機化学は歴史が長く、かなり成熟した分野であり、新たな展開を見つけるには相当深い専門性が必要です。それであれば視点を変えて、異分野との接点や融合で自分なりの発見を探したい、そう考えるようになっていきました。
異分野の計算化学を武器に
ブラックボックスの解明に挑む
「北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム」(通称リーディングプログラム)は、研究以外の分野でも即戦力となる人材を育成する修士・博士課程一貫の教育プログラムです。このプログラムには他分野の研究室に短期間移籍できる「異分野ラボビジット」という制度があり、それに惹かれて応募した私は修士1年次の12月から1カ月半ほど理学研究院の理論化学研究室(前田理教授)で計算化学に関する研究に関わらせていただきました。
計算化学を使うと、コンピューターで化学反応をシミュレーションし、これまでの実験的な研究ではブラックボックスだった原子や分子の動きを視覚化することができます。この新たな展開にメンタル面でも技術面でも多くの刺激を受け、現在も理論化学研究室との共同研究を続けています。ここでの経験は今後研究を続けていくうえで強力な武器になると思います。