特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.417 2019年01月号

低温の工学

特集 05

爆弾低気圧がもたらす冬特有の海象災害 Coastal disasters induced by explosive cyclones in winter

波の研究を災害対策に転換
実社会に役立つやりがいを感じます

環境フィールド工学部門 沿岸海洋工学研究室 助教
猿渡 亜由未

[PROFILE]

出身高校
明光学園高等学校
研究分野
海岸工学
研究テーマ
海象災害、波飛沫、海洋エネルギー

冬季の北日本で
猛威を振るう爆弾低気圧

寒い季節になると、「北日本は暴風雪で大荒れ、高潮・高波に警戒」といった報道が多くなりますが、その様な荒天のほとんどは爆弾低気圧が原因となってもたらされているものです。爆弾低気圧とは、24時間で24hPa以上の急速な中心気圧の低下を伴い発達する温帯低気圧のことです。冬場、気温が低下すると大陸上の空気が先に冷え、海洋上と大陸上との気温差が大きくなり、その差を埋めようとするために気流に渦(低気圧)が発生し、時には台風に匹敵する勢力をもつまでに発達します。

爆弾低気圧による被害は毎年の様に報告されており、昨冬は2017年12月24日に発生した低気圧により北海道、東北地方では大荒れのクリスマスとなり、人的被害を含む大きな被害が報告されました。また2014年12月17日には北海道東部の根室市で爆弾低気圧の接近により高潮が発達し、港内及び市街地に浸水被害が発生しました。高潮と言えば、2018年の台風21号により近畿、四国沿岸で発生し、関西国際空港が甚大な浸水被害を受けた報道が記憶に新しいと思います。

これまで日本で発生した高潮は台風に起因するものばかりでしたが、2014年根室の高潮により、冬季の温帯低気圧もまた海象災害をもたらすリスクがあることが広く認識されるようになりました。

図1 根室高潮発生時の高潮水位の数値計算結果 Figure 1 : Computed surface elevation on the 2014 Nemuro storm surge event.

数値解析や現地観測で
海象災害リスクの最小化を目指す

海面は陸地よりも摩擦抵抗が小さいため、海上では陸上よりもずっと強い風が吹いています。爆弾低気圧の下では、周りよりも気圧が低いため海面が持ち上げられると共に、海水が風下方向に吹き寄せられて高潮が発生し、同時に強風を受けた海面では10m以上にも及び得る高波が発達します。高潮は沿岸地域を浸水させ、高波は海水を勢いよく打ち付けることにより、海象災害を引き起こします。

我々の研究グループでは、海中の流れの数値解析や現地海象気象観測などを通して、爆弾低気圧通過時に海で起こる現象を理解することを目的として研究を行っています。起こり得る海象災害を統計的に評価し対策することにより、将来の爆弾低気圧による海象災害リスクを最小化することを目指しています。

図2 オホーツク海現地観測風景 Figure 2 : Coastal survey along the Sea of Okhotsk.

Technical
term

高潮
台風や低気圧の来襲時に海面の水位が上昇する現象。周期が数時間と非常に長いため、波というより海の水位が全体的に上昇する。