特集・研究紹介

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先駆的な技術を発信します。

No.417 2019年01月号

低温の工学

特集 04

寒冷地のコンクリートは壊れやすい? Is the concrete exposed to low temperature easily broken?

マクロからミクロまで多彩なスケールで
時代のニーズに応えるコンクリート研究

北方圏環境政策工学部門 ライフタイム工学研究室 教授
横田 弘

[PROFILE]

出身高校
徳島県立城南高等学校
研究分野
コンクリート工学、維持管理工学
研究テーマ
社会インフラのライフサイクルマネジメント

凍害は寒冷地のコンクリートが罹る
風土病です

寒冷地のコンクリートは壊れやすいのか?その答えは「Yes」です。一見硬くて密実と思えるコンクリートですが、内部は意外に空隙が多く、それが引き金となって、時間とともに劣化が進行することがあります。劣化を引き起こす要因や形態には様々なものがありますが、寒冷地に特有の劣化現象に凍害があります。水が凍結すると体積が9%程度膨張するのはよく知られていますが、コンクリート中の空隙を満たす水分の膨張が周囲のコンクリートにわずかな損傷を生じさせます。冬季の寒い時期に継続して凍結していればその影響は小さいのですが、日中温度が上がって氷が溶け、夜に凍結するという繰り返しによって損傷は徐々に進行します。

このように凍害は、凍結による水圧と、融解水の浸透圧によって生じるとされており、そのメカニズムは大変複雑です。凍害を受けたコンクリート構造物では、表層のスケーリング、微細ひび割れなどが見られます(図1)。皆さんの周りでも似たような損傷を受けた構造物を容易に見ることができると思います。放置していると、その後内部の鉄筋が腐食し、やがては崩壊に至ります。

図1 凍害が生じたコンクリート構造物(寒地土木研究所提供) Figure 1 : Frost damaged reinforced concrete structure.

凍害の発生を防ぎ
進行を予測・治療する

私達の研究は、凍害が生じにくいコンクリートを作るための材料設計、作られた後の凍害の発生・進行の予測、凍害が生じた構造物の性能評価や効果的な治療法の探求です。凍害が発生するメカニズムや要因は複雑で、その程度を予測するのは非常に難しいとされており、非常にチャレンジングな研究です。交通量の多い道路では冬季に塩化ナトリウム等を主成分とする凍結防止剤が大量に散布されますが、最近ではこの塩化物イオンが凍害の進行を促進することに着目し、凍結融解実験や数値解析によってその現象の解明に努めています(図2)。

自然現象を再現するために時間のかかる研究ですが、寒冷地においても安全・安心なコンクリートインフラを提供するために、日々の研究を進めています。

図2 環境の塩化物イオン濃度の相違によるスケーリング量の相違(左:NaCl濃度1%、右:5%;濃度が低いとより激しい凍害を示している) Figure 2 : Difference in scaling depending on the chloride ion concentration.

Technical
term

スケーリング
コンクリートの表面が部分的に薄片状に剥離・剥落する現象。