特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.417 2019年01月号

低温の工学

特集 03

真冬の北海道で大災害が発生したら~体育館の高断熱化の普及に向けて~ If great disaster occurred in mid-winter at Hokkaido ~Promoting highly insulated gymnasium~

平常時もまさかのときにも安心
北海道から生み出す高断熱公共建築

空間性能システム部門 空間形態学研究室 准教授
菊田 弘輝

[PROFILE]

出身高校
北海道札幌東高等学校
研究分野
建築環境・設備
研究テーマ
北方型環境建築の研究開発

もし真冬に大災害が置きたら?
課題が多い建物のハード対策

2018年9月の北海道胆振東部地震では道内全域にわたる大規模停電が発生し、我々の生活に甚大な被害をもたらしました。今後もし、真冬に大災害が発生してライフラインが断たれ、仮に近隣の小学校の体育館に避難し長期間生活することになれば、健康被害等の二次災害が懸念されます。現在、日本では2011年3月に起きた東日本大震災以降、2016年4月に内閣府より避難所運営ガイドラインが策定され、災害時のソフト対策は着実に進められています。

それに対し、新築建造物の高断熱化や既存の建物の断熱改修のようなハード対策は未だ不十分な状況です。人命を大きく左右する真冬の大災害に対し、エネルギー供給が不安定な状況にも耐えうる建物の断熱・気密性能の確保は、早急に取り組むべき重要な課題になっています。

平常時の効果も視野に入れた
体育館高断熱化への取り組み

東日本大震災の教訓を踏まえ、札幌市では、小学校体育館の高断熱化に向けた実験的な取り組みが行われました。冬の災害時に体育館の暖房が停止しても、避難者からの発熱(約35kW:480人想定)だけで最低限の室内環境を確保することを目標にしています。

プロトタイプとなる高断熱化第一号の体育館は、外気温マイナス10℃の時の室温をプラス10℃以上(室内外温度差20℃以上)に保つように設計されています。そこで我々の研究室では、人体発熱を灯油ストーブで模擬した実証実験を行った結果、温度差19.1℃を記録し、設計目標を概ね達成できていることが確認できました(図1)。また同時に行った気密測定により全体の隙間面積が1980年代の体育館と比べて5分の1程度であることも確認しています(図2)。

こうした1校の体育館の高断熱化に要するコストは、複数校にジェットヒーターを完備する額に相当します。どちらを優先すべきか判断が難しいものの、ハード対策は非常時に限らず、授業や学校開放のような平常時にもその効果を十分に発揮します。今後も体育館を含む各種用途建物の高断熱化の普及に向けて研究開発を進めていきます。

図1 人体発熱を模擬した実験 Figure 1 : Simulation experiment of human body heat.
図2 体育館を対象とした気密測定 Figure 2 : Airtightness measurement of gymnasium.

Technical
term

高断熱化
建物の熱の移動を防ぎ、一定の室温を維持する仕組み。北海道では「きた住まいるブランド住宅」として高断熱高気密の北方型住宅の普及を推進している。