特集 05
“光の渦”がものを動かす Optical manipulation by use of “optical vortices”
時間と空間を組み合わせた光研究は
北大ならでは。誰もやっていない領域へ
応用物理学部門 光量子物理学研究室 准教授
山根 啓作
ノーベル賞にも関わる注目分野
らせん状の波面をもつ「光渦」
今では色々な場所に使用されているレーザーですが、蛍光灯や太陽の光とは異なり、位相の揃ったきれいな波であるということをご存知の方も多いと思います。同じ位相を持った面は波面と呼ばれ、一般的なレーザーの波面は平行に並んでいますが、一方、「光渦(ひかりうず)」と呼ばれる光はらせん状の波面を持っています(図1左:普通のレーザー/右:光渦)。こうしたドリルのような形を見ると、何か回転しそうですよね?実際、光渦は回転と非常に深い関係を持っています。
光渦はほかにも、ビームの中心の位相が定まらず、真ん中が空いたドーナツ型になっているなど、色々変わった性質をもった奇妙な光です。ただ、変わっているというだけではなく、大容量化が求められる情報通信や天文分野、光を用いた物体操作などの非常に幅広い分野で応用が期待されており、超解像顕微鏡にも利用されて2014年のノーベル化学賞につながるなど、非常に熱い研究分野でもあるのです。
光渦がもたらす回転力で
微細な針など新デバイスを開発
そもそも光渦が注目を集めるようになったのは、光渦に物体を公転運動させる力があるということがわかったからです。実は光には“光圧”という力があり、対象物に接触することなく微粒子などを補足あるいは操作することができます。私たちは光渦を用いることで複数個の微粒子を補足し、そのまま公転させたり、金属や半導体上に光のらせん構造を転写した微小な“針”を作ることに成功しています(図2)。千葉大学の尾松孝茂教授との共同研究である「光渦を金属に照射した時にできる螺旋ナノ針(カイラルナノニードル)」もその一例です。
私たちがなぜ、微小な領域に注目しているかというと、物体のサイズが光の波長以下ぐらいに小さくなってくると、元の大きなサイズの状態とはまったく異なる物性(例えば光の吸収・発光特性など)を示すからです。微小な粒子や構造体を自在に作製・操作して新しいデバイスを作る道具として、光渦の可能性に期待しながら日々の研究を進めています。
Technical
term
- 位相
- 振動や波動のような周期的現象において、ある時刻・ある場所で、振動の過程がどの段階にあるかを示す変数。