特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.416 2018年10月号

北大発:未来の「運ぶ」に挑む

特集 04

ナノカプセルで医薬品を細胞に運ぶ Cell-targeted drug delivery using nano capsules

工学・医学・薬学の力をあわせて
社会の課題を解決する喜びを胸に

応用化学部門 生物計測化学研究室 助教
真栄城 正寿

[PROFILE]

研究分野
マイクロ・ナノ化学システム、分析化学
研究テーマ
マイクロ・ナノデバイスを用いたバイオ分析の開発、医療診断技術の開発

薬を病気の組織だけに運ぶ
ナノカプセルを共同研究

私たちは病気になると病院で医師の診察を受けて、処方された薬を服用します。服用した薬は体の中で分解・吸収されますが、薬の強さや過剰摂取によって副作用が生じることがあります。例えば、一般的に抗ガン剤は、ガン細胞を死滅させるために薬の効果が強いのですが、同時に正常細胞も死滅させる激しい副作用をもたらします。今では、日本人の2人に1人がガンとなり、3人に1人がガンによって亡くなります。ガンは、私たちの生活にとても身近な病気であり、世界中の製薬会社や大学の研究者たちが、ガンの早期発見法や副作用が少なく効果的な抗がん剤、薬物療法の開発に取り組んでいます。

私たちの研究室では、ドラックデリバリーシステム(DDS)と呼ばれる、低分子医薬品やDNA、RNAなどの核酸をナノメートルサイズのカプセルに封入して、病気の組織だけに運ぶことができる技術開発に北海道大学薬学部と一緒に取り組んでいます(図1)。

図1 作製しているリポソームの概略図 Figure 1 : Schematic illustration of liposome.

ガン治療から化粧品まで
ナノDDSが持つ無限の可能性

私たちが開発しているナノカプセル(リポソーム)は、我々の細胞と同じ脂質分子で構成されているため生体適合性が高く、届けたい標的細胞と反応する分子を組み込むことで、標的細胞だけに医薬品を運ぶことが可能です。すでに約100nmサイズのリポソーム製剤が実用化されていますが、近年はリポソームの大きさがさらに重要視されるようになり、私たちは、微細加工技術を用いてリポソームの大きさを精密に制御できる化学反応・分析装置、マイクロ流体デバイス「iLiNP(アイリンプ)デバイス(invasive Lipid Nanoparticle Production device)」を開発しました(図2)。マイクロメートルの微小流路をもつiLiNPデバイスは、従来の作製法では不可能な20〜80nmのリポソームを精密に作製することができ、動物実験では標的とした遺伝子の活性を著しく低減させることに成功しました。現在、北海道大学の認定ベンチャー企業であるライラックファーマ株式会社がiLiNPデバイスの実用化に取り組んでいます。ナノDDSは、ガン治療だけでなく、化粧品から遺伝子治療まで幅広く応用できます。医・薬・工の技術力を集結することで、北海道発のナノDDS技術の実用化を目指したいと思います。

図2 ガラス基板を加工したマイクロ流体デバイス Figure 2 : Glass-based microfluidic device.

Technical
term

マイクロ流体デバイス
半導体の微細加工技術を用いて作製した、幅・深さが数マイクロメートル(マイクロメートル:1mmの1/1000の大きさ)〜数百マイクロメートルの微小流路を持つ化学・分析システム。