特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.416 2018年10月号

北大発:未来の「運ぶ」に挑む

特集 03

「熱」を運ぶ Thermal energy transportation

氷から始まった北大の蓄熱研究
オンリーワンの研究開発が脈々と

エネルギー・マテリアル融合領域研究センター エネルギーメディア変換材料研究室 准教授
能村 貴宏

[PROFILE]

研究分野
エネルギー化学工学、エネルギー貯蔵材料
研究テーマ
次世代高温蓄熱・熱輸送技術の確立

電気や水素を使うために不可欠な
エネルギーを運ぶ技術

はじめに、私達が使っているエネルギーはどこからどのような形で運ばれているか、考えてみましょう。例えば、電気。私達が家庭で使っている電気は発電所で発電され、送電線で運ばれています。この電気が火力発電の場合は、天然ガスや石炭を燃やして発電しています。天然ガスはLNG(液化天然ガス)船でオーストラリアやマレーシアから運ばれ、石炭ならオーストラリアやインドネシアで採掘され、日本に運ばれてきます。つまり、これらのエネルギーは物質=化学エネルギーの形で運ばれています。

近年、「水素社会」が注目されていますが、例えばオーストラリア等で石炭の一種である褐炭から作った水素は、液化水素やメチルシクロヘキサンあるいはアンモニアとして日本に運ぶことが考えられています。このように、エネルギーを運ぶ技術はエネルギー利用技術の根幹を担っているのです。

病院や温浴施設に熱を運ぶ
熱の宅配便トランスヒートシステム

私達が使っている最も身近なエネルギーの一つに「熱」があります。熱を運び、使用することができれば、大きな省エネや二酸化炭素排出量削減に貢献できます。例えば、鉄鋼業などの高温産業では200℃程度の熱が大量に発生しますが、高温プロセスでは利用価値がないため、廃熱として捨てる他ありません。一方、この約200℃の低温廃熱は一般施設では冷暖房や給湯等に使える貴重かつクリーンな熱源となり得ます。

そこで我々の研究グループでは、物質が固体から気体へ、あるいはその逆方向へ相変化するときに発生する潜熱に着目し、熱を輸送可能な形にする潜熱蓄熱材を用いた潜熱蓄熱輸送システムを企業に提案しています。このシステムでは、事前に24トンコンテナのタンク内に潜熱蓄熱材となるエリスリトール(糖アルコールの一種)を充填し低温廃熱を蓄熱後、トラックで輸送し、目的地で各種熱媒体と熱交換すれば、温熱として供給できます。

現在、この潜熱蓄熱輸送システムは、三機工業(株)が「熱の宅配便トランスヒートシステム」として商用運転を開始し、エネルギー社会における熱の有効活用として注目を集めています。

図1 トランスヒートコンテナによる熱輸送 Figure 1 : Heat transportation system using Trans-heat container.
参考:Home page of “SANKI ENGINEERING CO., LTD.”
図2 トランスヒートコンテナによる潜熱蓄熱熱輸送システムの概要 Figure 2 : Overview of latent heat transportation system using Trans-heat container.

Technical
term

褐炭
炭化が不完全で褐色をした石炭。水分を多量に含み、かつ発火しやすいので運びづらい。