特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.416 2018年10月号

北大発:未来の「運ぶ」に挑む

特集 01

新世代のハイブリッドロケット A new generation of hybrid rockets

莫大なエネルギー放出で宇宙を目指す!
未来を担うロケット研究を北大から

機械宇宙工学部門 宇宙環境システム工学研究室 教授
永田 晴紀

[PROFILE]

研究分野
宇宙推進工学、燃焼工学
研究テーマ
宇宙用推進機関に関わる燃焼技術

宇宙輸送は加速である

宇宙へ荷物を運ぶ時はロケットを使います。輸送とは「荷物の所在を変えること」ですが、宇宙輸送は違います。例えば国際宇宙ステーションは第一宇宙速度(7.9km/s)付近で地球を周回しており、同じ速度にならないと中へ荷物を運び込むことは出来ません。ロケットは荷物の所在と速度の両方を変えるために莫大なエネルギーを使いますが、その90%以上は速度を変えるために使われます。宇宙輸送とは加速なのです。

莫大なエネルギーを使うロケットは安全管理施設が整った特別な射場から打上げられますが、ハイブリッドロケットは違います。危険物や火薬類を使用しませんので、簡素な安全管理で運用出来ます。しかし、固体燃料の燃焼速度が小さいため低推力である等の欠点から、未だ実用化例は限られています。

固体推進剤の燃焼速度を
遥かに凌ぐハイブリッドロケット

上記の欠点を克服した端面燃焼式ハイブリッドロケット(図1)は、円柱形固体燃料の軸方向に設けられた無数のポート出口で微小火炎が形成され、それらが一体化し、あたかも煙草のように軸方向に燃え進みます。近年の高精度3Dプリンタの誕生でようやく燃料の成型が可能になりました。これには東京大学大学院理学系研究科附属フォトンサイエンス研究機構のグループから多大なご協力を頂いています。端面燃焼式燃料は外径20mmの円柱形樹脂の軸方向に、内径0.3mmの微小流路が2mm間隔で無数に設けられています(図2)。燃焼速度は極めて大きく、固体ロケット用推進剤の数倍の燃焼速度(50気圧で30mm/s前後)が見込まれています(図3)。固体推進剤より一桁小さい燃焼速度をせめて数分の一くらいまで改善出来ないかと世界中の研究者が努力を重ねている中で、固体推進剤を遥かに凌ぐ燃焼速度は注目に値します。

安全管理コストは機体の規模にあまり依存しませんので、ハイブリッドロケットの利点である安全性は小型化するほど重要になります。超小型衛星の需要が高まるに従って、宇宙輸送用小型ロケットの研究は益々重要になると予想されます。

図1 端面燃焼式ハイブリッドロケットの概念 Figure 1 : Basic concept of End-burning Hybrid Rocket.
図2 端面燃焼式燃料の外観 Figure 2 : Appearance of the End-burning fuel.
図3 燃料端面の拡大図 Figure 3 : Enlarged view of the fuel end face.

Technical
term

ハイブリッドロケット
燃料と酸化剤に異なる相を用いるロケット。一般的には燃料としてプラスチック樹脂等の固体、酸化剤として液体酸素等の液体が用いられる。