特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.416 2018年10月号

北大発:未来の「運ぶ」に挑む

特集 02

冬期における自動運転の実用化 Practical use of the self-driving vehicle in winter

寒冷地の課題を解決する冬の自動運転
人口減少によるドライバ不足の対策にも

北方圏環境政策工学部門 先端モビリティ工学研究室 教授
萩原 亨

[PROFILE]

研究分野
交通工学
研究テーマ
ドライバの人間工学、自動運転車の実用化

一般ドライバの運転に学び、
冬期における自動運転の実現に向けて

多くのドライバは冬期における運転は危険だと感じています。なかでも、北海道のような寒冷地では冬になると道路状況が悪化し、公共交通機関が止まるなどして冬期でも長距離移動を強いられることが少なくなく、こうした地域においては自動運転の実現が必要とされています。ところが、冬期における自動運転の検討例はほとんどありません。その理由は、現状の自動運転システムが冬の道路環境に完全に適応できていないためです。しかし、一般ドライバは危険と感じながらも冬期の道路環境において運転できています。したがって、ドライバがどのように冬期の運転を行っているのか、そのプロセスを知ることができれば、必ず自動運転が可能となると言えます。

計測車と一般道を自動運転走行
壮大な取り組みのスタート地点に

冬期の自動運転は、道路環境と自動運転を制御するシステムとの組み合わせがキーとなります。ドライバは視界や路面などの道路環境を考慮した運転、例えば早めのブレーキ、速度の低下などを行います。道路環境に合わせて、このような運転をシステムが実現できればよいことが分かります。

そこで、我々は、冬期における自動運転の実用化に向けた最初の手がかりを探るべく、路面のすべり計測車・視界計測車といっしょに自動運転車を一般道で走らせ、現状の自動運転車の走行が危険となる道路環境を観測することから始めました(図1)。この観測から、一般のドライバが滑って怖いと感じるような低ミュー路では、速度を落としブレーキを早めることをシステムが適切に実行されれば、安全な運転が可能となることを知ることができました。

これまで我々は道路を管理する立場から、気象情報を組み入れ数時間後の道路の路面や視界を予測するシステムを構築してきました。このような技術を高度化し、自動運転にとってリスクとなる路面状況・視界状況に関する情報を適切に自動運転システムに伝えることができれば、冬期であっても自動運転を実現できるようになるかもしれません。このような仮説を実証する膨大な取り組みがこれから始まろうとしています。

図1 冬期の道路環境における自動運転走行 Figure 1 : Automated driving on winter road conditions.

Technical
term

低ミュー路
路面の滑り摩擦係数(μ:ミュー)が低い路面。