特集・研究紹介

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先駆的な技術を発信します。

No.415 2018年07月号

未来への扉~国際共同研究~

特集 04

長時間幅パルス性地震動の発生要因を探る Wide width velocity pulse strong ground motion

地震観測は国境を越えて
共同研究の成果で人命を守りたい

建築都市空間デザイン部門 都市防災学研究室 准教授
髙井 伸雄

[PROFILE]

研究分野
地震工学、強震動地震学
研究テーマ
設計用入力地震動作成の高精度化に関する研究

同じ震度でも異なる被害
長時間幅パルス性地震動

2016年4月16日に起きた熊本地震(マグニチュード7.3)では、益城(ましき)町と西原(にしはら)村に設置された地震観測点で震度7が観測され、多くの被害が発生したことは皆さんもご存知の通りです。ところが、同じ震度7でも両地点周辺の被害は異なりました。地震動の種類が違ったのです。西原村で観測された地震記録は片振幅が3~4秒続く長時間幅パルス性地震動であり、一方の益城町の記録は1~2秒の地震動の割合が多く、益城町の観測点周辺でより甚大な被害が発生しました。

この1~2秒の地震動の場合、過去の被害から木造住宅等の一般構造物に大きな被害が生じることがわかっています。反対に、現在急増している超高層建物や免震構造のような長周期構造物は、西原村で起きたような長時間幅パルス性地震動が脅威となります。幸いなことに西原村ではこのような長周期構造物が存在しませんでしたが、将来発生しうる都市部付近の地震を考えると、決して無視することはできません。

2015年ネパール・ゴルカ地震
共同研究の規模がさらに発展

2015年4月25日にネパール国カトマンズ付近でマグニチュード7.8の大地震が発生しました。我々は2011年から現地トリブバン大学と共同でカトマンズ盆地に4観測点を設置し、地震観測を続けてきました。ネパールはヒマラヤ山脈の麓であり、活発な造山活動によりこれまでに多くの大地震が発生しています。このような地域で観測を実施し、当地を含め世界中の堆積盆地上に位置する都市の防災に有益な設計用入力地震動を評価することが、この国際共同研究の目的です。

地震発生直後に現地の被害調査を実施し(図1)、地震観測記録を回収し解析したところ、西原村よりも長い時間幅を持つパルス性の地震動であることが判明しました(図2)。この貴重な記録はすでに多くの世界中の研究者により検討され、長周期構造物に危険な地震動であることが指摘されています。世界各地の地震発生地帯における地震防災のためにも、この地震動の発生要因解明はとても重要なミッションです。現在はSATREPS(JICA-JST)プロジェクトとして現地政府研究機関との共同研究へと規模が発展し、観測点をさらに増設しています。

図1 2015年ネパール・ゴルカ地震によるカトマンズ市内の建物被害調査 Figure 1 : Building damage survey in Kathmandu city after the 2015 Gorkha Nepal earthquake
図2 断層直上のカトマンズ盆地で観測された2015年ネパール・ゴルカ地震のパルス性地震動 Figure 2 : Wide width velocity pulse motion during the 2015 Gorkha Nepal earthquake at the Kathmandu valley.

Technical
term

設計用入力地震動
建築物の耐震安全性を検討するための、コンピュータのシミュレーション上の 建築物モデルに与える設計用の地震動。