特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.415 2018年07月号

未来への扉~国際共同研究~

特集 01

未来への挑戦と研鑽〜米国研究機関との共同研究 Challenge and improvement for future ~ Collaboration with research laboratories in the United States

文化、思想、技術、戦略がMIXする
国際共同研究、そのバトンを未来に

材料科学部門 機能材料学研究室 教授
橋本 直幸

[PROFILE]

研究分野
核融合炉・原子炉材料
研究テーマ
原子炉・核融合炉構造材料の開発及び照射損傷機構の解明

米国オークリッジ国立研究所と
核融合炉実現のための共同研究

米国エネルギー省(DOE)管轄の国立研究所の一つであるオークリッジ国立研究所(ORNL)は、米国のエネルギー戦略と科学技術を支える大研究所で、遺伝子科学研究施設、スーパーコンピュータ、中性子研究センター等、世界屈指の研究施設を有しています。ORNLは様々なエネルギー関連の研究を行っており、その一つに、環境に優しい未来のエネルギー源と言われる核融合科学に関するプロジェクトがあります。核融合とは太陽で起こっている莫大なエネルギー反応で、核融合炉を実現させるということは地球上に小さな太陽を作り出すことを意味します。私たちは日本の研究機関の一つとして、この核融合炉の達成に必要な構造材料の開発研究に携わっています。世界中の国々から集まってきた優秀な研究者達が、国籍に関係なく一つの言語で自由に討論する姿は身震いするほど素晴らしく、そういう環境は私たちにとって貴重な自己研鑽の場であり、挑戦でもあります。

壮大かつ長期的な計画の
一端を担う醍醐味を実感

私たちの研究課題は、核融合炉の中で最も過酷な環境におかれる材料の開発です。小太陽の反応はプラズマと呼ばれる状態にあり、炉の中の材料は高温・高エネルギーの中性子に晒されて損傷します。したがって、最適な核融合炉材料を創製するには、様々な材料の損傷過程を詳細に調査し、損傷のメカニズムをきちんと把握することが重要となります。私たちが開発した材料をORNLが所有する核研究炉(図1)に預け、核融合炉条件を模擬した高エネルギー中性子に晒した後、材料の強度、硬度、延性、脆性、寸法、微細組織変化等を、米国あるいは日本の最新分析機器(図2)で評価します。

各機関により丁寧かつ慎重に解析された貴重なデータは、研究会や国際会議で十分に議論され、論文として発表されます。人類の未来を明るく照らすべく、世界中が協力して取り組んでいる壮大かつ長期的な計画の一端を担っている、そう感じながら研究できることが、国際共同研究の醍醐味であると思います。

図1 米国オークリッジ国立研究所にある核研究炉HFIR Figure 1 : High Flux Isotope Reactor (HFIR) at ORNL(Photo: Genevieve Martin/ORNL).
図2 材料の微細構造解析に有効な透過型電子顕微鏡 Figure 2 : Transmission Electron Microscope used for microstructural analysis of materials.

Technical
term

プラズマ
原子を構成するプラスの原子核とマイナスの電子がバラバラになり、自由に動き回る荷電粒子の集まり。固体、液体、気体につぐ「第4の状態」とも呼ばれている。