研究紹介



2016年9月、道央道切土法面での観測装置設置作業


概要

 これまで、Imperial Collegeや港湾空港技術研究所などで、地盤耐震強化・地盤改良から永久凍土まで、その時々のプロジェクトに沿って地盤工学に関わる様々なテーマを研究してきました。北海道大学では、それまでの研究の経験や知見に基づきながらも、より長期的・基礎的な研究に重点を置いて研究活動を行っています。特に、様々な土の要素挙動に関する実験的研究・モデル化と、土構造物(切土を含む)の動態観測に力を入れています。フィールド挙動の説明のため、数値解析も行っています。ここでは、近年の研究の大きなテーマをいくつか紹介します。

土の強度・変形特性

 土の強度・変形特性(剛性)の計測・予測は地盤工学上もっとも基本的な技術であり、最も古い、伝統的な研究テーマです。このこともあって、強度・剛性の研究を表に出す研究グループは近年、非常に少なくなってきました。しかしこのことは、土のこれらの特性が完全に理解され、かつ容易に求められるようになったことを意味しません。例えば、土質力学試験で最も汎用的・基本的なものといえる三軸圧縮試験でさえ、多くの実務者には「敷居が高い」とされているのが現状です。また、基本的な強度定数(せん断抵抗角・粘着力)が求められたとしても、その信頼性や、地盤工学問題への適用性に疑問が残る場合も多くあります。土の力学試験は、おそらく本質的に繊細で、難しいのでしょう。地盤工学界でその水準を維持するための貢献も、我々のグループの使命の一つと考えています。加えて、当研究グループでは、異方性・時間効果(粘性など)など高度な側面を含め、多種多様な土質に対して高品質データを求めるとともに、手法・装置に関する方法論の確立を目指して技術開発・研鑚を行っています。

不均質性・異方性・時間効果など

 地盤工学の文脈において、異方性とは不思議なものです。土は異方であることは誰も知っており、異方性を反映する式・解析手法も何十年も存在しているにも関わらず、実務で考慮されることはあまりありません(聖アウグスティヌスが「時間」に対して言ったことを思い出します - 「問われなければ私はそれを知っている、問われれば私はそれを知らない」)。例えば、粘土は載荷方向によってせん断強度は1.5~2倍程度、剛性は3倍程度まで異なることを示してきましたが、「細かい問題」と考える人が多いようです。一方で、この特性を考慮しないまま、地盤挙動の予測値と実測値が数%まで整合した、と主張するのがナンセンスであることは明らかです。土質力学が精緻な材料力学となるためには、本来存在する特性を正しく認識し、精緻に計測する技術が必要です。ただし、これに必要な技術は決して簡単なものではありません。当研究グループでは、高度な試験技術水準の維持とともに、新しい技術を導入することでより簡素な装置で同等に土の変形特性を得る手法の開発を行っています。


(左)等方圧力を受ける泥炭の圧縮 (右)泥炭の内部構造

 土の変形特性の妙は、泥炭のような(ある意味)極端な土を見てみるとよく理解できます。左上の写真は泥炭を等方圧力で圧縮していく様子です(*1)。軸方向にだけ圧縮が進み、供試体の直径はあまり変化しないことがわかります。鉛直・水平の圧縮ひずみ比は5倍にもなります。右上の写真はこの泥炭のX線CTによる内部画像です(港湾空港技術研究所 松村 聡氏の協力による)。泥炭の繊維は水平方向に並んでおり、明らかに構造が異方的であることがわかります。盛土による泥炭地盤の側方はらみ出しは遠方にまで波及し、鉄道等の既存構造物に影響を及ぼします(*2)。このような変形特性の正確な把握の重要性は明らかです。


(左)一次元圧縮を受ける泥炭供試体の変位分布:だんだんと均一になる (右)ひずみ速度を段階的に上げ下げしながらの一次元圧縮

 泥炭を、ひずみ5%ごとにひずみ速度を変えながら一次元圧縮したものが上図(*3)です。特殊な圧密試験装置で実施し、画像解析により供試体全ての高さでの局所変形がわかります。供試体中の変位分布を見てみると、ひずみが小さいうちはバラバラですが、弱部が圧縮されるにしたがい、だんだんと変形が均一になっていくことがわかります。これと同期するように、応力-ひずみ曲線のひずみ速度依存性が次第にアイソタック的になっていく様子がわかります。ミクロ~メソ不均質性と異方性・時間効果はこのように関連しながら変形とともに発展していく様子がわかります。また、平易に言えば、不均質でスカスカだった泥炭も、圧縮が進むと連続体的な挙動になるといえます。


異方弾性係数群を得るための特殊な三軸試験装置

 一方で、泥炭のような「キワモノ」土でなくとも、異方性は極めて大きなものです。ロンドン粘土の強度・剛性異方性は私の博士論文テーマでしたが、粘土の異方性も非常に大きなものです。上図は剛性異方性を定量的に求める特殊な三軸試験装置です(*4)。せん断剛性率のように排水条件に依存しない定数を求めるのは簡単ですが、ヤング率のように排水条件でないと有効応力に対する骨格剛性として求められない定数を粘土に対して求めるのは至難の業です。計測装置には極度の安定性・正確性・精度が求められます。下図はこれまでに求めた剛性異方性のまとめです(*5-7)。便宜上、等方応力状態での比に直しています(各記号の意味などは左記の文献参照)。砂分が増えるほど、また、セメント改良土の場合は土粒子の割合が減るほど(たとえば気泡混合固化処理土のように)等方に近くなることが視覚的に理解できます。


 様々な土質の弾性係数の異方性:全ての比が1だと完全に等方となる
*1 西村 聡 (2021) 室内土質試験の新たなオプション.地盤工学会誌 Vol.69, No.1, pp.8-12.
*2 山添誠隆・田中洋行・西村聡・林宏親 (2014) 泥炭性軟弱地盤の周辺変形予測精度に着目した剛性特性の定式化と適用.地盤工学ジャーナル 9 (3) 427-442. DOI: 10.3208/jgs.9.427
*3 Thenuwara, T. A, Udeshika・西村 聡・市川 瑠 (2018) Investigation of the strain rate-dependent consolidation behavior of four peats. 第58回地盤工学会北海道支部技術報告会, pp.233-242.
*4 Nishimura, S. (2014) Assessment of anisotropic elastic parameters of saturated clay measured in triaxial apparatus: Appraisal of techniques and derivation procedures. Soils and Foundations 54 (3) 364-376. DOI: 10.1016/j.sandf.2014.04.006
*5 Nishimura, S. (2014) Cross-anisotropic deformation characteristics of natural sedimentary clays. Géotechnique 64 (12) 981-996. DOI: 10.1680/geot.14.P.088
*6 Martínez, D. A. and Nishimura, S. (2015) Stiffness anisotropy characteristics of natural fined-grained seabed sediments. 6th International Symposium on Deformation Characteristics of Geomaterials, Buenos Aires, 824-831.
*7 Nishimura, S. and Martínez, D. A. (2016) Cataloguing stiffness anisotropy of natural sedimentary soils – from clays to intermediated soils. Proceedings of the International Mini-Symposium Chubu, Nagoya, Japanese Geotechnical Society Special Publication 5 (2) 101-106. DOI: 10.3208/jgssp.v05.021

土質試験方法の開発

 先述のデータはどの研究室でも得られるという類のものではありません。同じ精度の試験をすぐにできる実験室は世界でも片手(両手かな?)で数えられる程度です。これを多様な土に対して適用してデータ収集を行っていくこと自体にも意味はあるのですが、より効率的・簡易に試験をできる手法の開発も行っています。例として、東京大学の桑野・大坪研究室の協力を得て導入したディスク型せん断モード振動子は、ベンダーエレメントと等価なせん断剛性率計測を非貫入で行うことができるツールとして有用性が期待されています(下図)。東京大学では主に砂を対象に実験を行ってきていますが、当研究グループでは主に粘土に対して実証中です(粘土は減衰が大きく、波動伝達が困難な場合があります)。


三軸試験装置中のディスク型振動子:ベンダーエレメントやフラットな表面に交換可能な設計

 また、市販のミッドレンジクラスのデジタルカメラを用いたステレオ画像解析では、水や円筒アクリルによる屈折効果を補正しながら供試体のXYZ3方向変位をフルフィールドで0.001mmオーダーで解像できるようになりました(*8)。これらはいずれも初期投資額が極めて小さく(カメラ2台でも10万円程度で、既往のLVDT1本にもなりません)、汎用性のある方法です。すなわち、三軸試験でも中空ねじり試験にも、またその他の試験にも適用可能です。また、ハードウェアのみならず、実験方法・手順を簡素化しながらも等価な剛性データを得るアプローチも研究・実証しています(*9)。


(左)ステレオ画像解析(複数カメラによる三次元位置復元:実際には三軸セルとセル水による屈折効果も補正する必要あり)
(右)参照座標(黒点)と復元座標(黄点)

例:ポリウレタンダミー圧縮時の半径方向変位分布:端面潤滑の効果が明白

 ステレオ画像解析はやや複雑ですが、カメラ1台だけを用いた画像解析でも従来的な試験方法では見えなかったいろいろなことが見えます。泥炭の不均質な変形特性を観察した例を先に挙げましたが、これは下図のように1台のカメラからの画像をサブピクセルPIVにより解析したものです(最終的に、120度ずつ異なる角度から3台のカメラを用いて平均をとる方法にしましたが)。セメント改良土にも適用し、べディングエラーの影響を受けずに微小ひずみ剛性を求める有効な方法として提案しています(*10)。


 透過面を持つ圧密試験容器:サブピクセルPIVにより0.001%のオーダーのひずみ分解が可能
*8 西村 聡・横山 勇樹 (2021) ステレオフォトグラメトリーを用いた三軸試験による微小変形計測:原理と精度評価.第61回地盤工学会北海道支部技術報告会
*9 Nishimura, S. and Magalona, F. (2020) An alternative method in triaxial tests to obtain cross-anisotropic elastic parameters. Géotechnique Letters 10 (3) 468-477. DOI: 10.1680/jgele.20.00031
*10 Nishimura, S., Iwaki, A., Takashino, S. and Tanaka, H. (2016) Image-based measurement of one-dimensional compressibility in cement-treated soils. Géotechnique 66 (10) 840-853. DOI: 10.1680/jgeot.15.P.218


凍土力学・熱の効果

凍土

 西村グループの研究の大きな柱の一つは凍土力学です。「北海道だからね」とよく言われますが、北海道でも、冬期の凍結深度はそこまで大きくはありません。むしろ、地下施工の補助技術としての凍結工法の発展への寄与を目的として、民間企業の支援・協力を受けながら研究を行っています。凍土の力学も歴史は長く、よく参照される文献だけでも、少なくとも60年は遡ります。しかし、コンピュータによる連成解析が標準的手段となりつつある現代においては、もう一歩踏み込んだ凍土力学の体系が必要となります。例えば、伝統的な凍土の研究においては、すでに凍結した土が全応力変化に対してどう挙動するか、という視点でのみ議論が行われていました。しかし、凍結・融解過程を通して記述するためには、凍結状態・非凍結状態を統一的に記述するフレームワークが必要です。このようなモデル化へのアプローチは提案されてきた(提案してきた)のですが(*1-2)、実験による実証はまだまだ道半ばです。ノルウェー科学技術大学など海外の機関の研究者達とも協力し、研究を進めています。


冷媒の循環と圧力セルへの移動量を同時に制御可能な凍結三軸試験装置

等方応力下でのベンダーエレメント試験が可能な小型凍結圧縮装置

 凍土の強度・変形特性を調べるために、特殊な三軸圧縮試験装置を使用しています(*3)。本装置では、非凍結土を圧密した状態で、そのまま拘束圧下で急速に凍結することができます。凍結方法にはいくつかありますが、一次元凍結(下端からの凍結)を急速に行う特殊な方法も適用可能です(*4)。メガトルクモータを用いた載荷により、クリープ試験を含む、種々の載荷が可能です。不凍液(エチレングリコール)内に局所変位計を配備して微小ひずみ剛性を正確に求めることもできます(*5)。軸圧縮ができないかわりに、非常に簡単に等方圧縮下でせん断剛性率をベンダーエレメントにより求める小型セルも開発しました(*6)。


X線室内で使用可能な一次元凍結・融解装置

凍結融解時のメソ構造変化の例:凍結速度・拘束圧が低いと氷と土が分離するが、これらが高い場合は明確な分離は起こらない

 凍結中の挙動とは別途、凍結・融解時の挙動に関する研究も行っています(*7)。一般的に、寒冷地の凍上現象解明のために、いわゆる凍上試験が多く行われてきました。凍上試験は要素試験(要素挙動を再現する試験)ではなく模型試験(境界値問題を再現する試験)であるため、その解釈には、モデル推定(仮定)・実証、という逆問題的な発想が必要でした。結果として、これまでに(多くは類似しているものの)数多くの異なるモデルが提案されています。これを一歩すすめるためには、凍結融解時の間隙水圧や体積変化など、これまで厳密に計測されずに「全体としてつじつまが合うように仮定」されてきた個々の細目に改めて焦点を当てる必要があります。近年行っている研究として、極めて小さく、ゆえに均質に温度が伝わる供試体を用いて凍結・融解による体積変化を調べています。X線CTによる内部構造変化の観察をふまえたうえで、有限要素法など連続体解析に組み込み可能なメソスケールモデルを構築しています。最終的には、地盤の凍結・掘削・融解に伴う地盤の応答を熱・水・土連成解析で一気通貫に再現することを目標としています。そのための連成有限要素解析コードもPythonにより開発しています。

*1 Nishimura, S., Gens, A., Olivella, S. and Jardine, R. J. (2009) THM-coupled finite element analysis of frozen soil: formulation and application. Géotechnique 59 (3) 159-171. DOI: 10.1680/geot.2009.59.3.159
*2 Nishimura, S. and Wang, J. (2019) A simple framework for describing strength of saturated frozen soils as multi-phase coupled system. Géotechnique 69 (8) 659-671. DOI: 10.1680/jgeot.17.p.104
*3 Wang, J., Nishimura, S. and Tokoro, T. (2017) Laboratory study and interpretation of mechanical behavior of frozen clay through state concept. Soils and Foundations 57 (2) 194-210. DOI: 10.1016/j.sandf.2017.03.003
*4 長井優樹・西村 聡 (2020) 三軸圧縮試験における凍結方法の違いによる凍結粘性土強度への影響.地盤工学会北海道支部技術報告集 Vol.60, pp.1-10.
*5 Wang, J., Nishimura, S., Joshi, B. R. and Okajima, S. (2019) Small-strain deformation characteristics of frozen clay from static testing. Géotechnique. 69 (9) 816-827. DOI: 10.1680/jgeot.18.p.115
*6 Nishimura, S., Wang, J., Okajima, S. and Joshi, B. R. (2019) Small-strain deformation behaviour of a clay at frozen and unfrozen states: A comparative study. 7th International Symposium on Deformation Characteristics of Geomaterials, Glasgow. E3S Web of Conferences 92 04001 – 04001. DOI: 10.1051/e3sconf/20199204001
*7 Nishimura, S., Okajima, S., Joshi, B. R., Higo, Y. and Tokoro, T. (2020) Volumetric behaviour of clays under freeze-thaw cycles. Géotechnique, Ahead of print. DOI: 10.1680/jgeot.20.P.047

高温による変形

凍結とは反対に、多くの土は熱を与えると体積圧縮を起こします。北海道道内の事業に関連して、近年、泥炭の熱圧縮挙動に関する研究を始めています。粘土でも加熱により圧縮が起こることは知られていますが、泥炭への効果は大きく、室温から温度を上げるだけで簡単に大規模な圧縮が起きます。例えば下図の例では、実験1(緑線のデータ)のstep2は10℃下で荷重を10kPaから30kPaと、3倍にしたものです。10%近いひずみがこれにより生じますが、さらにstep3として、荷重をそのままで温度を10℃から40℃に上げると、15%ものひずみが生じます。このメカニズムを化学的・現象論的に解明することを目指して実験を行っています。最終的には、上述の凍土モデルと統合する形で、加熱(間隙水の相変化を伴わない状態変化)・凍結(相変化を伴う状態変化)いずれにも対応する解析手法の開発を目指しています。


(左)泥炭の一次元圧縮:黒字ステップでは荷重を、赤字ステップでは温度を上げている (右)温度制御圧密装置
 

土構造物のモニタリング・土-水挙動の解明

冬期挙動の解明

 「水の作用なしに土構造物が崩壊した例はない」と言われるほど、土構造物の安定性に対する間隙水圧の影響は大きいです。豪雨による短期的な浸潤や、気候を反映した長期的な地下水状態変化の複雑さはよく知られています。寒冷地では、これに加えて融雪の影響があります。積雪が季節外れの暖気により融解したり、積雪時に降雨があったり、場合によっては排雪作業(除雪車は数十mも雪を投げて斜面に積もらせることがあります)による人為的な積雪深の変化などもあり、土構造物への水の浸透問題は複雑さを増します。この問題に対応し、間隙水圧上昇による土構造物不安定化を予測するための一つの方法論は、従来的なアプローチ、すなわち観測→モデル化→解析による再現のサイクルです。当研究グループでは、多くのサイトに観測ステーションを設け、液相・気相の相互作用を考慮した浸透流解析で豪雨・融雪による浸透の再現を目指しています。


(左)積雪下の遊水地周囲堤 (右)冬期~春期の法面間隙水圧記録と浸透流解析による再現(*1)

 もう一つのアプローチは、観測からのデータをそのままリアルタイムで用いることにより、不安定化の兆候を把握することです。いわゆるearly warning systemの研究もこれまでに多く発表されてきましたが、通信網が発達し、ハードの価格が下がった現在、このアプローチはかつてない可能性を有しています。当研究グループでは、LPWA通信を用いることにより、1箇所4深度の間隙水圧を30分に1回クラウドに送信するシステムを、2万円強で製作しました。ちなみに、日本の国直轄管理河川堤防は約1万4000kmで、200mに1本この装置を立てても21億円(人件費・交通費をを含みませんが)。地盤を網羅的に観測し、防災に役立てる観測網「地盤のインターネット(IoG)」の時代の到来に向けて、基礎データや経験を得るべく、製作・観測を続けています(*4)。


(左)河川堤防(試験堤防)での自作LPWA通信テンシオメータアレーによるモニタリング (右)高速道路盛土への設置

 観測というのは、言うは易し、行うは難しです。やってみると、思いもよらなかったことが多く(斜面に1mも根入れした鉄の単管が、雪の滑動荷重で曲がるとは・・・実験室ではスリープに入ったマイコンがフィールドでは入らず、1回のみ記録して電池切れになっていた・・・などなど)経験というものは非常に重要です。「後から思えばこうしてばよかった」―英語で"in hindsight ..."ということが往々にあります。この方法論の洗練に向け、当研究グループは険しい原位置にもひるまず(膝の骨を折ったこともあります)、観測活動を続けています。


(左)時には雪中行軍も余儀なくされる。歩くのは大変だが、ソリが使えるぶん、夏より楽なことも (右)キタキツネに出くわすことも

 当研究グループの特長・強みとして、装置は素子・ICチップ・モジュール、そしてネジの1本の単位から自作しています。間隙水圧のほか、地温・雪温・積雪深・傾斜など必要に応じてなんでも計測項目を柔軟に増やせます。


種々のパーツを組み合わせて観測装置を自作

豪雨時の堤防安定性の調査

 寒冷地の問題とは別に、全国的な問題として、豪雨時の堤防挙動があります。堤防は外水(河川水)による浸透や侵食によって破壊されるのですが、そもそもの話として、それに先立つ豪雨により、長期的・短期的に浸潤を繰り返しています。これにより堤体の健全性が損なわれることもあるため、雨水がどのように堤体内に浸透し、そして滞留するかを予測する技術は重要です。そしてこの現象は気候や土質条件により大きく異なる様子を呈するため、秋田(*5)・北海道(*2-3)・タイ(*6-7)など異なるサイトでこれまで観測を続けてきています。多くのサイトで観測を続けていれば、豪雨に出会うこともある、と信じて続けています。これまではせいぜい90mm/dayの豪雨ですが、私達の数値解析によれば、100mm/dayを大きく超える豪雨に対しては空気の閉封など特殊な現象が起こると予想されており、そのような現象の捕捉を目指しています(*5)。


秋田県馬場目川の断面と豪雨時飽和度のシミュレーション(気液二相連成解析)

 再現解析には、従来的な不飽和浸透流解析(*8)のみならず、気相(空気)と液相(水)の流れを連成させた解析により、空気圧による浸透へのインピーダンスを考慮しています。また、水分特性曲線のヒステレシスも考慮しており、現実的に浸透現象に大きく影響を及ぼす因子を考慮しています(*5)。

*1 地盤工学会北海道支部気候変動に伴う積雪寒冷地の地盤災害リスクに関する研究委員会 (2017) 委員会報告6.2節(西村執筆担当分).気候変動に伴う積雪寒冷地の地盤災害に関するシンポジウム発表論文集
*2 西村 聡・所 哲也・Rivas, M. F. (2016) Predicting pore water pressure variations in embankments due to evapotranspiration and precipitation. 地盤工学会北海道支部技術報告集 Vol.56, pp.339-348.
*3 Nishimura, S., Tokoro, T., Yamada, T., Izumi, N. and Rivas, M. F. (2015) A case study of long- and short-term hydraulic state changes in embankment in Hokkaido. 6th Japan-China Geotechnical Symposium, Sapporo, Japanese Geotechnical Society Special Publication 1 (7) 34-39. DOI: 10.3208/jgssp.JPN-38
*4 西村 聡・川尻峻三・山添誠隆 (2020) LPWA通信機能付マルチチャネルテンシオメータによる堤体中間隙水圧計測の飛躍的効率化.第8回河川堤防技術シンポジウム
*5 Nishiie, S., Nishimura, S. and Yamazoe, N. (2019) Long- and short-term pore water pressure variations in sandy river dike interpreted with 1- and 2-phase seepage flow analysis. 7th Asia-Pacific Conference on Unsaturated Soils, AP-UNSAT 2019, Nagoya. Japanese Geotechnical Society Special Publication 7 (2) 648-653. DOI: 10.3208/jgssp.v07.099
*6 Jotisankasa, A., Pramusandi, S., Nishimura, S. and Chaiprakaikeow, S. (2019) Field response of an instrumented dyke subjected to rainfall. Geotechnical Engineering Journal of the SEAGS & AGSSEA 50 (1) (Online).
*7 Shrestha, A., Jotisankasa, A., Chaiprakaikeow, S., Pramusandi, S., Soralump, S. and Nishimura, S. (2019) Determining shrinkage cracks based on the small-strain shear modulus – suction relationship. Geoscience 9 (9) 362. DOI:10.3390/geosciences9090362
*8 新清晃・西村聡・藤澤和謙・竹下祐二・河井克之・佐古俊介・森啓年・山添誠隆・太田雅之 (2019) 河川堤防への降雨浸透と浸潤状態予測に関する一斉解析からの知見.土木学会論文集C(地圏工学75 (4) 398-414.


その他 -混合土・新しい土工材料など-

 上記の他(あるいは上記に関連する形で)、種々の土質の研究を行っています。例えば製鋼スラグ混合粘土の挙動を、地球科学の専門家達と協力して化学・力学の両面から解明したり(*1-3)、応力・温度・含水比変化のもとでのセメント混合土の特性の時間変化を調べたりしています(*4-5)。下の動画は、製鋼スラグ・粘土の混合体を硬化前(混合直後:左)と硬化後(養生14日目:右)に一面せん断試験に供したときの内部の様子です(港湾空港技術研究所 松村 聡氏の協力による)。


製鋼スラグ・粘土の混合体の一面せん断試験:(左)養生0日 (右)養生14日
*1 Toda, K., Kikuchi, R., Otake, T., Nishimura, S., Akashi, Y., Aimoto, M., Kokado, T. and Sato, T. (2020) Effect of soil organic matters in dredged soils to utilization of their mixtures made with a steel slag. Materials 13 (23) 5450. DOI: 10.3390/ma13235450.
*2 Weerakoon, N., Nishimura, S., Sato, H., Toda, K., Sato, T. and Arai, Y. (2020) Stiffness and strength mobilization in steel slag-mixed dredged clays in early curing. Ground Improvement 173 (2) 65-81. DOI: 10.1680/jgrim.17.00083
*3 Toda, K., Sato, H., Weerakoon, N., Otake, T., Nishimura, S. and Sato, T. (2018) Key factors affecting strength development of steel slag-dredged soil mixtures. Minerals 8 (5) 174, DOI: 10.3390/min8050174
*4 Por, S., Nishimura, S. and Likitlersuang, S. (2017) Deformation characteristics and stress responses of cement-treated expansive clay under confined one-dimensional swelling. Applied Clay Science 146 316–324. DOI: 10.1016/j.clay.2017.06.022
*5 Nishimura, S. and Abe, K. (2015) Effects of early-age consolidation on strength development in cement-treated clay. 15th Asian Regional Conference on Soil Mechanics and Geotechnical Engineering, Fukuoka, 2053-2058.