地盤工学的電子工作講座 geotechlab-workshop




2017年3月、バンコクにて友人のApiniti Jotisankasa博士(右)とともに

地盤工学研究と電子工作

 地盤工学の実験的研究・原位置観測には何らかの装置が必要です。これらの装置には機械的側面(金属加工・モーター・配管など)と電気的側面(制御・データ記録)があります。後者にはコントローラやデータロガーが必要になりますが、多くの場合、これらは高価であるとともに、求める諸元を過不足なく満たす製品を見つけるのは困難です。特に、実験室でシンプルな試験を行う場合にはオーバースペックとなり必要以上にコストがかかる問題が起こりがちです。また原位置計測においても、既製品を用いて装置設営する場合はかなり高価になります。一方で、Arduinoのヒットなどにより、マイコンを用いた電子工作の敷居は大きく下がっています。本研究グループでは、自作によるコントローラ・原位置観測装置を積極的に用いて研究を行っています。また経験半ばですが、これまでの知見を地盤工学のコミュニティで広く共有することを目的として、電子工作ブログを2020年より展開しています。研究予算に限りがある若手研究者に役に立てば幸いです。また、予算云々の話を超えて、自身でつくる楽しさ、ほんのささやかな完成品を自慢する喜びこそ、工学・研究の原点です。ぜひ皆さんも研究成果のその前、研究装置の「仕込み」を楽しんでみませんか。

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作品例

 いくつか作品例を紹介します。ここにあるものを多数生産したり、この他にも実にたくさんの装置をつくりました。

WiFiデータ転送機能付きひずみゲージ型センサーロガー


 ひずみゲージ型センサーを1チャネルつなげることができ、逐次その数値を表示するとともに、Micro SDカードに記録し、WiFiでクラウドにデータを転送します。段階載荷圧密試験に使用することを想定し、リセットボタンを押してから自動的に記録間隔が伸びていくように設定されています。製作レシピは上記ブログの第36回に載せています。

段階載荷圧密試験(4連)データロガー


 ひずみゲージ型センサーを4チャネルつなげることができます。1つのロガーで4チャネルではなく、あえて1チャネル/台のロガーを4台並べています。これは学生実験で最大4班に分けて4連の段階載荷圧密試験を実施するためです。他の班の操作ミスでデータを消されないように、という配慮です。製作レシピは上記ブログの第35回に載せています。

連続加圧式水分特性試験用制御・記録インターフェイス


 応用地質株式会社が考案した連続加圧式による水分特性試験を実施するための制御・記録インターフェイスです。これをWindows PCにUSB接続し、西村グループのフラッグシップ制御ソフトウェア「Cockpit」で制御することで、電空変換器を制御するとともに、空気圧・水圧・供試体体積変化を計測します。2台同時に制御するために2連となっています。

一次元繰返し凍結・融解装置データロガーと制御盤


 ペルチェ素子を用いて小型供試体を急速に凍結・融解する試験のデータロガーと、凍結・融解切り替え制御盤です。荷重と供試体上下端温度(熱電対による)を記録します。制御盤は単純な切り替えスイッチ回路です。電圧を正負逆転するのに、いちいちバナナクリップを抜き差ししていたのを改善しました。

原位置データロガー(電気式テンシオメータ用)


 斜面や盛土・堤防中の間隙水圧を長期計測するためにテンシオメータとデータロガーをどちらも自作しています。この型は2018年ごろから製作しているもので、太陽光パネルを用いているためバッテリー交換が不要です。データはMicro SDに記録されていきます。記録時刻以外はほぼ完全にスリープする機構になっているので、7Ahの鉛シールバッテリーを用いれば太陽光パネルなしでも1年くらいは稼働します。この省電については上記ブログの第14・15回に記しています。

LPWA通信機能付きマルチチャネルテンシオメータ


 間隙水圧長期計測を各段に効率化する最新の装置です。LPWA通信(sigfox)によりフィールドからクラウドまで直接データ送信されます。小型の太陽光パネルを搭載しているため、もはや設置後はバッテリー交換・データ取得のために原位置を訪問する必要がありません。また、1本のロッドに4個のテンシオメータユニットを組み込んであり、「穴を掘って挿せばそれで設営完了」というものです。2万6000円くらいの材料費と、年間通信料880円で製作可能です。太陽光パネルとリチウムイオン電池(18650)・チャージコントローラはガーデン用ライトをハッキングして転用。部品を揃えるより安く済みます。「Arduinoを始めよう」でArduinoの開発者たちが賞賛していたハッキングの精神です。

積雪深計


 積雪深を長期観測するための装置です。型の異なる超音波距離計2つと赤外線測距計により、ヘッドから積雪表面までの距離を3つのチャネルで計測しています。また、設置パイプには10cmおきに温度計が設置されており、その日変化を読み取ることで、パイプのどの高さまで積雪が至ったかを別途推定できます。冬期の厳しい環境下で欠損なくデータを取得するたに、このように多重の計測を実装しているのが特徴です。