北海道大学大学院工学研究院 応用化学部門 有機工業化学分野

反応有機化学研究室 構造有機グループ

「カルボニルひも」の化学

 もし分子の世界に、何にでも自由に姿や形を変えられる魔法のロープのようなものがあったなら、それはどんな分子だろう?

 私たちの研究は、そんな発想からスタートしました。最初は、何かの役に立つだとか、研究の意義だとかいうことは考えていませんでした。ただ、ずっと作ってみたい分子があった。すごく合成が難しい分子で、10年越しの想いは未だに実現に至っていません。だからこそ、魔法にでもすがりたくなるような気持になった、というのが正直な所です。

Carbonyl rope

 私たちにとっての魔法のロープ分子は、その名を「カルボニルひも」と呼びます。

 カルボニルひもは、アルカンの鎖にカルボニル基が沢山ついた分子です。最初は、合成する方法さえありませんでした。2年間かけて、アセチルアセトンという小さなカルボニル化合物を1つ1つ反応で繋ぎ合わせて、1本の長いひもにすることで合成できるようになりました。そして、作ってみるとこの分子は、色々な形に変形でき、さらに様々な働きをすることが分かってきました。まさに魔法のロープです。私たちは、このカルボニルひもにどんな魔法が隠されているのか、そして、その魔法を自在に操ることで作りたかった分子を作り出すことができるのか、という事を明らかにするべく研究を行っています。

◆ カルボニルひもを伸ばす

 カルボニルひもの原料であるアセチルアセトン誘導体は、長さが0.5ナノメートルほどしかない小さな分子です。この化合物の末端に反応点としてシリル基を導入し、続いて酸化銀を作用させることで、その長さを2倍にすることができました。この末端シリル化と酸化銀によるカップリング反応を繰り返すことで、全長が6ナノメートルにも及ぶ長いカルボニルひもを合成することができます。このカルボニルひもを、有機分子の中でよく目にするベンゼンと分子模型で比べてみると、その長さが良く分かります。

Carbonyl rope

◆ カルボニルひもで色素分子を”一筆書き”

 カルボニルひもは、様々なカタチの炭素骨格を一筆書きで描く様に合成することができます。特に、π共役系の繋がった分子を描けば様々な色を呈する色素化合物を生み出すことが可能です。以下に示す分子は、どれもカルボニルひもから誘導された新しい有機色素です。それぞれに赤い太線で示された炭素の繋がりが元のカルボニルひもの炭素鎖に相当します。ここで生み出された色素分子は、単に色が付くだけでなく、固体状態でのみ発光したり、光を当てることで分子構造とともに色が変化したりといった機能も持ちあわせていることが分かってきました。

Chromophores

◆ カルボニルひもからイミンひもへ 〜ひもを織る、巻き付ける〜

 カルボニルひもにヒドラジンを作用させると、全てのカルボニル基がイミンへと定量的に変換されます。イミンの窒素原子は、金属イオンと配位結合しやすいため、イミンひもと金属イオンを混ぜることで様々な形(ナノ構造体)を作り出すことができます。

Imination

これまでに、ニッケルや亜鉛、パラジウムなどの金属イオンを使ってイミンひもを巻き付ける、2次元のシートを織る、2重らせんのようなペアを作るといった事に成功しています。

Nanostructures

◆ 参考文献

上記の研究をもっと詳しく知りたい方は、論文リストをご参照ください。