研究室紹介

分析事例

イオン注入を利用した高強度材料製作手法の確立

マルチビーム超高圧電子顕微鏡に付属したイオン加速器を活用することで、既存の手法では得られないような相組織・原子構造をもった材料を創製することが可能となります。例えば、アルミ合金に種々の金属元素をイオン注入することで、非平衡な析出相を微細分散させることによりイオン注入層のみを高強度化することができます。また、構造材料用ステンレス鋼についても、イオン注入を利用することで表層のみに硬いマルテンサイト相を形成させることが出来るため、新しい表面改質技術として今後の応用が期待されます。

図1 電子線照射による非平衡析出相のアモルファス化

図2 FeおよびArイオン注入した301ステンレス鋼に形成された微細マルテンサイト相

マルチ量子ビーム環境を模擬したシミュレーション照射実験

レーザー光と電子線

1998年、イオン加速器2台を連結したマルチビーム超高圧電子顕微鏡を開発、2007年には短パルスレーザーを敷設したレーザー超高圧電子顕微鏡(L-HVEM)を開発、さらに2009年には、イオン加速器(試料照射真空チャンバー部)に短パルスレーザー装置を備えたイオン・レーザー照射単独装置の開発を実施してきました。現在は未踏であるレーザー・電子線・イオンの3種量子ビームのマルチビーム超高圧電子顕微鏡の実現に向け準備を進めています。これによりフォトン(レーザー光)、レプトン(電子)、ハドロン(イオン)というすべての素粒子系の代表が揃います。これにより、これまで行えなかったガンマ線(電磁波)、ベータ線、中性子・イオンの量子ビームが共存・競合する核融合炉環境の高温プラズマに曝される材料損傷模擬なども可能であります。電子顕微鏡機能としてのナノ領域観察によるその場実験が同時に行えるため、高時間・高空間分解能解析によるグリーンナノテク・エネルギーの研究推進が期待されます。

図3 レーザー・電子線照射のボイド形成写真
(a)電子線のみ (b)レーザー照射のみ (c,d)レーザー照射の後に続いて電子線照射 (e)レーザー・電子線同時照射:時間および温度は下図に記入(RTは室温)

イオンと光

イオン照射と短パルスレーザー照射を組み合わせることにより、ガラス基板表面にレーザーの波長や電場ベクトルに依存した貴金属ナノ粒子を周期的に配列させたナノ構造を作成できることが明らかになってきました。そこで、超高圧電子顕微鏡室ではイオン加速器と短パルスレーザーを組み合わせて超高圧電子顕微鏡に連結し、ナノ構造形成の機構解明とその応用について研究開発を進めています。

図4 照射前後の表面SEM像 (a)未照射、(b)イオンのみ照射、(c)レーザーのみ照射後、(d)同時

図5 照射領域の吸収スペクトル

高分解能TEM/STEM観察とEELSを用いた材料開発

近年のデバイスの微小化に伴い、先進材料の研究開発に向けてはサブナノスケールでの材料の構造評価と状態分析が必須となりつつあります。マルチビーム超高圧電子顕微鏡ならびに各種分析電子顕微鏡の組み合わせにより、先進デバイス材料の解析を実施しております。例えば、金属/セラミックス界面の原子構造をマルチビーム超高圧電子顕微鏡で直視するとともに、界面における特異な電子状態を電子エネルギー損失分光法(EELS)と第一原理電子状態の組み合わせにより解明しました。また、最新の球面収差補正STEMを用いて先進セラミックス材料の原子構造を明らかにするとともに、材料中での電子線伝播挙動をシミュレーション計算により評価し、ドーパント分布の定量化に向けた研究を行っております。

図6 Zn終端界面における原子構造の解析例

図7 EELSと第一原理電子状態計算に基づく界面結合状態解析

図8 Caをドープしたα-SiAlONの高分解能HAADF像と構造モデル

図9 α-SiAlON中での電子線伝播挙動のシミュレーション結果

超高圧電子顕微鏡のバイオマテリアルへの応用

マルチビーム超高圧電子顕微鏡の超高電圧により加速された電子の波長は非常に短いため、高い分解能が得られると同時に、電子線は物質を透過しやすくなります。特に、生体材料等の電子線照射に弱い物質を高分解能で観察する場合、通常の電子顕微鏡(加速電圧 200kV)を用いると電子ビームによる熱ダメージにより試料は大きく損傷されてしまいます。マルチビーム超高圧電子顕微鏡を用いることで熱ダメージを抑えつつ原子レベルでの物質の構造を観察することが可能となり、バイオマテリアルの微細構造解析に威力を発揮しています。

図10 生体組織に包埋されたカーボンナノチューブの明視野像と高分解能TEM像

図11 人歯エナメル質の微細組織と各方向から見た高分解TEM像