特集 04
自分の手でつくりだす新しい半導体 Creating new semiconductors by your own hands
半導体結晶は化学の宝石美しさに潜む新たな機能を求めて
応用化学部門 固体反応化学研究室 教授
島田 敏宏
まだ誰も使っていない新規半導体材料を合成
化学のもっとも楽しいところは、自分の手で望みの物質を作り出せることです。私たちもまだ使われたことがない新たな機能や特性を持つ半導体物質を発掘・開発しようと、日々研究に取り組んでいます。現在、実用化されている半導体にはSi、GaAs、GaNなどいろいろありますが、実は半導体の性質を示す物質は膨大に存在し、我々はその中でも金属カルコゲナイドという50年以上の歴史がある物質群に着目しています(図1)。この金属カルコゲナイドは化学結合が2次元的なことが特徴で、最近のナノ加工技術の発展から当研究室ではセンサーに応用することを目標にしています。
主な研究活動としては新規半導体の結晶を作るほか、オリジナル物質の合成技術や微細加工技術、既存の素子と組み合わせた回路設計技術を生かした研究を進めているところです。現在の計算化学の進展をもってしても計算機の中だけで半導体としての性能を予測することはできないため、合成や結晶成長、デバイス評価を組み合わせたさまざまな物質探索を行っています。同時に、超高圧で分子結晶を圧縮重合させて新しい炭素系半導体を作る試みも行っています。どちらも計算化学の援用が必須であり、学生たちは大型計算機と面白そうににらめっこしています。私たちにとって結晶とは、宝石の原石のような存在です。その美しい輝きの中に秘められた機能を見出すことに大きなやりがいを感じています(図2)。
答えのないプロセスで鍛えられる基礎研究力
私が大切にしている研究モットーは、「人の言うことを鵜呑みにせず、昨日の自分も疑うこと」。一般に新規物質の研究は応用や実用化に至るゴールがはるか遠くにあるため根気がいるうえに、そう簡単には正解にたどり着けない非常にチャレンジングな研究であることは事実です。だからこそ自分で道を切り拓くプロセスを通して、学生たちは基礎研究力が鍛えられ、ひいては将来どんな職場を選択することになっても発展が期待できる応用力も磨かれていくことになります。半導体産業で盛り上がる北海道で、フロンティア精神に熱い人材の成長を応援しています。
Technical
term
- 金属カルコゲナイド
- 通常、第16族元素(カルコゲン)のうちS(硫黄)、Se(セレン)、Te(テルル)と金属元素の化合物を指す。層状の結晶構造をもち剥がれやすい性質があるものが多い。