特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.435 2024年08月号

半導体研究の最先端

特集 02

未来の「光」を一緒に創りませんか?
─半導体の超微細加工を実現するプラズマ光源の開発─ Ultra-fine semiconductor processes based on plasma light sources

見えないものを計測する技術で半導体開発現場を支えたい

応用量子科学部門 プラズマ材料工学研究室 准教授
富田 健太郎

[PROFILE]

出身高校
福岡県立京都高等学校
研究分野
プラズマ工学、プラズマ計測
研究テーマ
極端紫外(EUV)および軟X線光源用プラズマの計測・最適化研究

EUV露光で焼き付ける超微細な半導体回路

半導体はスマートフォン、自動車、家電製品など、私たちの身近にある、あらゆる電子機器に使用されています。今後も自動運転やAI技術をはじめとするIoT領域が拡大するにつれ、半導体にはデータ処理能力の飛躍的な向上と低消費電力化の両立が求められます。その実現には半導体のさらなる微細加工が必須であり、超微細加工を実現する最先端技術としてEUV (Extreme-Ultrap Violet)と言われる極端紫外光を用いた露光(リソグラフィー)があります。私の研究は、このEUVを発する光源の開発に関するものです。

露光(リソグラフィー)とは、写真のフィルムなど光に反応する材料の表面に光をあて、感光させることを指します(図1)。半導体における露光とはシリコンの基板上に光を用いて、微細な回路パターンを焼きつける工程を指します。回路パターンをどれだけ細かくできるかは波長の短い光がキーとなり、EUV露光では非常に短い波長(13.5ナノメートル)の光を用いています。

図1 露光(リソグラフィー)は半導体材料にマスクを通して光を照射し、回路パターンを焼き付ける工程。本研究はその時に使用する最先端の「光源」の開発に関するものです。 Figure 1 : lithography is a process in which light is irradiated through a photo-mask onto semiconductor materials to make a circuit pattern.

環境負荷の低減を目指してEUV光源を計測・制御

現在のEUV露光技術は膨大な電力が必要であり、環境への負荷が問題視されています。特に、EUVを発する源(光源)の生成に大きな電力が使われており、光源生成の省エネ化が打開策として期待されています。EUV光源は、1億分の1秒程度のごく短時間だけ金属を摂氏30万度以上のプラズマ状態にし、EUVを放出するものです(図2)。EUV光を効率よく取り出すためには、光源となるプラズマの温度や密度、流れを計測し制御(コントロール)することが基本となります。ところが、こうした物理量計測は非常に難しく、長年ブラックボックスのような状態が続いていましたが、「計測できないものは制御できない」という理念の下、私たちのグループでは、今ではEUV光源の温度や密度、流れの計測を世界で唯一可能としています。

このように北大工学部には「半導体微細加工の要であるEUV光源が、なぜ光るのか?」を学理として明らかにできるオンリーワンの計測技術があります。この「なぜ?」を解き明かす研究を積み重ね、私たちと一緒に「未来の光」を創っていきませんか。

図2 (a) 実際のEUV光源プラズマからEUV光が発光される様子。(b)プラズマ内の2次元速度場構造(上側のみ表示)。半径150µmの範囲は、プラズマ中心軸上へ流れていく特異な流れ構造が観測された。流れの速さは時速4万キロメートル以上。 Figure 2 : (a) EUV light emitted from actual EUV source plasma. (b) 2D velocity field structure in the plasma (only the upper side is shown). An unexpected flow structure was observed in the 150 µm radius range, flowing up the plasma center axis.

Technical
term

プラズマ
固体・液体・気体ではない“第四の状態”とも言われ、超高温によって分子が電離し、電子とイオンが混在している状態。