特集 01
化合物半導体量子ドットが拓く次世代情報通信技術 Quantum information and communication technology based on compound semiconductor quantum dots
次代の量子インターネット構想を照らす半導体量子ドット構造
応用物理学部門 半導体量子工学研究室 准教授
笹倉 弘理
化合物半導体でつくる量子ドット構造
半導体というと、家電製品やパソコンなどの電子デバイスを思い浮かべる人が多いと思いますが、半導体に関する研究は実に幅広く、私は半導体を活用した光の制御について研究しています。一般にLSI(大規模集積回路)に使われる半導体素材のシリコンは、光との相性が良くありません。これを克服するため、化合物半導体であるガリウムヒ素やガリウムをインジウムやアルミニウムで置き換えたものをナノメートルスケールで組み合わせると、「量子ドット」と呼ばれるごく小さな箱のような構造が出来上がります。
この量子ドットは内部の空間にエネルギーを閉じ込め、電子や正孔を局在させることができるため、光との相性がさらに良くなります。組み合わせる化合物半導体の種類や大きさを制御することにより、内部エネルギーを自在にデザインすることができ、新たな原子のようなふるまいを示すことから、量子ドットは「人工原子」とも呼ばれています。
光子数に揺らぎの無い光を「なりすまし」対策に活用
ではなぜ、光との相性がいい半導体量子ドットが必要なのでしょうか。私の研究室では、現行の光ファイバー通信網と親和性の高い量子ドット内蔵型光ファイバーデバイスを開発しています。光との相性がいい半導体量子ドットからは「パウリの排他律」の助けを借りて、どんな時刻においても光子数が確定している特殊な光が発生します。これをネットワーク社会のサイバーセキュリティに活用すると、量子暗号を通じて盗聴者が介入した足跡を知る「なりすまし」対策として必要不可欠なものになります。このように量子光学の分野では、光を思い通りに制御する最適なプラットフォームとして半導体量子ドットの研究開発が進んでいます。
また、将来的には従来のゼロイチで動いていた情報処理ネットワークに代わる、ゼロとイチ両方の状態が重なり合う量子の不確定性を活かした量子ドット内蔵型光ファイバーデバイス同士を繋げた量子インターネット構想に向けた展開も見据えています。
Technical
term
- 量子暗号
- 量子力学における波束の収縮に基づく、完全な盗聴者検知が可能となる暗号鍵配送方式。
盗聴者が暗号を「観測した」という傷跡が必ず送受信者間で確認できる。