特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.435 2024年08月号

半導体研究の最先端

特集 03

次世代半導体をリードする安定・低温焼成型銅ナノ粒子分散系 Stable, low-temperature sintered copper nanoparticle dispersions leading next-generation semiconductor industry

高校で学ぶ化学や物理を土台に半導体研究の最先端を拓く

材料科学部門 先進材料ハイブリッド工学研究室 教授
米澤 徹

[PROFILE]

出身高校
甲陽学院高等学校
研究分野
ナノ材料科学、ナノ粒子、導電材料、医療材料、電子顕微鏡、2次電池
研究テーマ
次世代半導体をリードする安定・低温焼成型銅ナノ粒子分散系

三次元集積を実現する銅インク・ペーストを製造

次世代半導体産業において、銅ナノ粒子を基材とするインク・ペーストは今後、非常に重要な役割を果たします。というのも、半導体を使ったLSI(大規模集積回路)は現在、AIの登場などによりその規模をどんどん大きくしており、そのためにチップ面積の拡大化や配線の複雑化によるデータ処理の遅延が問題視されていますが、これを解決する回路の三次元集積に欠かせない次世代配線材料が、我々が研究開発している銅ナノ粒子を基材とするインク・ペーストなのです。

これまで配線材料には主に酸化しにくい銀が使われていましたが、銅は銀と同程度の優れた導電性と熱伝導性を持ち、同時に金属原子が移動することで配線ショートの原因となる現象が銀よりも圧倒的に起こりにくいという配線材料に適した耐性も持っています。しかしその一方で、銅は非常に酸化しやすく、比表面積を高めた場合、燃焼する可能性も高くなるため、その利用には多くの課題が存在していました。

低温かつ安定的に焼成できる銅ナノ粒子分散装置も開発

この課題を克服するため、当研究室では適切な有機保護剤を用いて銅ナノ粒子の表面をカバーすることで酸化を防ぎ、安定なナノ粒子化を実現しました。研究室レベルで1バッチあたり100g程度の大量合成技術の開発にも成功し、その実用化を目指しています。さらに、この我々が製造した銅ナノ粒子インクを適切かつ高濃度で分散するための装置も開発することで、200℃以下の低温で安定的に銅ナノ粒子を焼成することができ、従来の高温焼成プロセスに比べてエネルギー効率が向上し、材料の熱的損傷を軽減することができるようになりました。

これらの技術によって積層するウエハ同士を繋ぐビアホールの埋め込みや、高密度の配線を描くこともより容易になり、次世代半導体技術の進展に大きく貢献できる未来に近づいています。こうした半導体研究の最先端に立つ我々ですが、その土台には皆さんが高校で学んできた化学や物理の基礎知識が生きています。これからの半導体産業は理系や文系の垣根なく、色々なアイデアを持つ人材が歓迎されます。興味がある人はその好奇心をおおいに発揮してほしいと思っています。

図1 高分子による表面の酸化抑制 Figure 1 : Oxidation suppression of copper surfaces by polymers

Technical
term

三次元集積
半導体回路設計において基盤となる平面状のウエハを上下に積層して回路全体の性能を高める技術。