特集・研究紹介

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先駆的な技術を発信します。

No.429 2022年08月号

フロンティアを切り拓く若い力

特集 04

高温での過酷環境から金属材料を守る Protection of materials against harsh environment at high-temperature

高温酸化・腐食に潜む金属材料の多様な顔に出会いたい

材料科学部門 先端高温材料工学研究室 助教
米田 鈴枝

[PROFILE]

出身高校
新潟県立新潟中央高等学校
研究分野
高温酸化・腐食
研究テーマ
耐熱合金の高温酸化・腐食、高温エロージョン・コロージョン

ボイラー内の金属材料を守って長く使えるように

「流動床ボイラー」という言葉を聞いたことがありますか?流動床ボイラーは、700℃〜800℃程度の高温に加熱し流動させた砂の中に燃料を投入し燃焼させるボイラーです。炉内では、まるで沸騰した水のように高温の砂がボコボコと流動しています。炉内で回収した熱を用いて発電を行っており、回収する熱量の調節により砂の温度制御が容易であるため、木質バイオマスから廃タイヤまで多種多様な燃料の燃焼が可能です。また、流動床ボイラーは一般的なボイラーよりも炉内の燃焼温度が低く、NOxの排出量が低減できるクリーンなボイラーです。

何でも燃やせて環境にも優しい流動床ボイラーですが、炉内で使われる伝熱管などの金属材料は、流動する砂の衝突によるエロージョン(摩耗)と環境中に含まれる塩素によるコロージョン(腐食)の両方が生じる環境にさらされ、激しく損耗します。そのため、安全により長く運転するには金属材料を守ってあげる必要があります。

ヒントは表面構造にあり!新しい酸化皮膜を形成

今私たちは、企業と共同で耐高温エロージョン・コロージョン性に優れている新しい金属コーティング材料の開発に取り組んでいます。高温では金属材料は必ず腐食し、表面に酸化皮膜が形成します。高温腐食から金属材料を守るには、金属表面に保護性のある酸化皮膜を形成させればいいのですが、エロージョンが加わると保護性酸化皮膜を形成するだけでは金属材料を守ることができません。これまでの研究から、耐高温エロージョン・コロージョン性の向上には、耐エロージョン性に優れる酸化皮膜の形成や、砂の直接的な衝突を緩和する凹凸状の表面構造が重要であることがわかってきました(図1)。

現在は独自に開発したエロージョン・コロージョン装置を用いて酸化皮膜のエロージョン性を支配する因子について調査しています(図2)。今後は新しいアプローチでの耐高温エロージョン・コロージョン材料の設計指針の確立を目指すとともに、学術的にも未だ不明な点が多い高温エロージョン・コロージョン機構を解明していきたいと考えています。

図1 これまでに開発した金属コーティング(表面凹凸構造によりコーティング表面への砂の衝突が緩和される) Figure 1 :Developed new coating (Uneven surface structure suppresses the impact of fluidized sand on the coating surface)
図2 開発した流動床式エロージョン・コロージョン試験装置 Figure 2 : Fluidized Bed Erosion-Corrosion Test Apparatus

Technical
term

高温エロージョン・コロージョン
燃焼時にエロージョン(摩耗)とコロージョン(腐食)が相乗的に加速化するため、内部の金属の損耗が激しくなる。