特集 04
デジタルの力を借りて人のための都市・建築をデザインする Urban and architecture design for people with the help of digital technology

データサイエンスが照らし出す
真に幸福な都市・建築の未来像
建築都市部門 都市地域デザイン学研究室
助教
渡部 典大
人の感情や行動を解析し都市・建築の計画設計に反映
情報化社会が進む現代の都市計画および建築設計は、従来のような計画設計者の暗黙知だけでなく、さまざまな関係者の合意形成が求められ、計画設計の方針とその根拠を明確に示す必要性が増しています。また計画設計者についても高齢化により経験の継承が不十分であったり、過去の経験と現代のニーズとの間に乖離があるなどの課題も発生しています。こうした現状を踏まえ、現在の建築分野ではデータ解析やシミュレーションに基づく科学的な計画設計プロセスが重要視されています。私たちの研究室では機械学習を用いて人の感情・行動と空間の関係性を解明し、計画設計に反映する手法を研究しています。例えば、図1は札幌都心にある赤レンガプラザ周辺(複合ビルおよび広場)を対象にSNSに投稿されたテキストデータから人々がどのような感情を抱いているかを解析したものです。「イルミネーション」という単語が含まれる投稿を抽出して分析すると、「イルミネーション」の近くに「アトリウム」「建物」「赤レンガテラス」などの建築空間に関連する単語があることから、イルミネーションは周辺建築と一体的に認識されており、周辺建築との一体的なイベントデザインが重要であることが分かります。感情に関する単語を見ると、「イルミネーション」を中心とする建築空間の単語の近くにプロットがあり、「綺麗です」「楽しい」などの建築空間に対する肯定的な感情と、「耐えがたい」という冬季の屋外環境に対する否定的な感情があることが確認できます。
また、人々の歩行ルートや速度、滞留時間なども解析し、空間デザインと人の行動の関係性についても研究しています。このようにデジタルの力を借りて人の感情や行動を読み解き、計画設計に反映するデザイン手法を構築することで、真に人の幸せを実現できる都市・建築の実現を目指しています。

積雪寒冷都市特有のデザインアプローチを
都市計画や建築設計では過去や現状を解析すると同時に、計画設計案が実現された先の未来をも見通す必要があります。その一例として本研究室では、積雪寒冷都市の都市デザインについて雪シミュレーションを用いた研究を進めています。気象データと流体解析を活用し、雪シミュレーションを行うことで、大きな吹き溜まりや除雪のエネルギーを低減できる都市・建築の形態を探っています(図2)。
札幌のような積雪寒冷都市は、冬季の厳しい寒さや積雪のために暖房や除雪に莫大な労力とコストを費やす一方で、世界の観光客を魅了する美しい雪景色や四季の変化など、ここにしかない魅力を持ち合わせています。今後も冬の問題を低減しつつ、積雪寒冷都市特有の魅力を創出していくために、温暖な地域とは異なる新たなデザインアプローチが必要だと考えています。

Technical
term
- 合意形成
- 企業や自治体、コミュニティなど様々な意思決定の場面で、議論を通じて利害関係者の意見の一致を図ること。