特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.427 2021年12月号

未来が見えていますか?
データサイエンス最前線

特集 03

持続発展可能な農業をロボティクスとデータサイエンスで実現する Realizing Sustainable Agriculture with Robotics and Data-Science

農業大国北海道の明日を見つめ
地道な除草作業にスマート農業を

機械・宇宙航空工学部門 ロボティクス・ダイナミクス研究室
准教授
江丸 貴紀

[PROFILE]

出身高校
北海道札幌北高等学校
研究分野
ロボット工学、制御工学
研究テーマ
積雪環境下における自動運転、除草ロボットの開発、ドローンによるインフラ点検、農林業の ためのドローンによるリモートセンシング技術の開発

日本の農業の課題をロボットで解決する

日本の様々な業界で従事者の高齢化と労働力不足が問題となっている今、農林水産省は2013年から「スマート農業」を推進し、2025年には農業の担い手のほぼ全員がデータを活用した農業を実践するという政策目標を掲げています。こうした背景から現在は多種多様な農業ロボットの開発が進められていますが、実際には国内の営農者は小規模経営が多く、高額なロボットへの投資が難しいことや、作業の正確さに対する期待値が非常に高いため、ロボット導入の機運がさほど高まっていないという日本固有の問題を抱えています。

この状況を打破するため、我々のグループでは漢方薬の材料となる薬草に着目しました。除草剤の使用が制限されている薬草は現在も手作業で除草が行われており、除草ロボットの開発が切望されています。また薬草の単価が高いことから比較的高価な農業ロボットを導入できる可能性もあり、まずはこの分野で農業ロボットによるコストダウンと汎用性を実証し、将来的に他の作物にも展開していくことを狙っています。

ベテラン農家のスキルを持つ自動除草ロボットの開発

我々は高性能な除草ロボットを開発するため、①圃場を自律移動するロボットベース(図1)、②ロボットハンドによるピンポイント除草機構、③作物と雑草を正しく識別するマルチモーダル深層学習システム(図2)という3つの側面から研究を進めてきました。最近ではこれらを統合することで生じる次の課題、「認識精度を向上させるためにはロボットがどのように動けば良いのか」「雑草を取りやすいロボットの動き方」へと研究を進めています。

深層学習の精度を向上させるには、「質の良いデータセット」が「大量に」必要です。その点、北海道大学はキャンパス内に農場があるところが非常に大きな利点です。その一角に我々も専用の圃場を確保して、いつでもデータの取得や実験ができる体制を整えています。それと並行して実際に農家さんたちから直接、現場の声を聞かせていただけることも、学生たちのモチベーションにつながっています。「農業大国北海道に貢献したい」という思いで研究に取り組む彼らの姿に頼もしさを感じています。

図1 北大農場における実証実験の様子。 Figure 1 : Demonstration experiment at Experimental Farm of Hokkaido University.
図2 深層学習による認識結果。
収穫したい作物(ハトムギ)と雑草(ハトムギに見た目がよく似ているヒエ)を識別する精度を上げていく。 Figure 2 : Recognition results by deep learning.
We will improve the accuracy of distinguishing between the crops (Pearl barley) and weeds (Japanese barnyard millet, which looks a lot like Pearl barley).

Technical
term

スマート農業
ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用する農業。作業の自動化や情報共有の簡易化、データの活用を目的とする。