特集 02
データ科学が加速するマテリアルのフォアキャスト Forecasting of materials accelerated by data science

実験とシミュレーションの融合で
材料科学の新しい扉が開きました
材料科学部門 組織制御学研究室
教授
大野 宗一
コンピュータによるマテリアル研究
現代社会に必要なスマートフォンや自動車、ビルなどあらゆる製品や技術の実現には「マテリアル」が必要です。今、研究開発の現場では、地球規模の環境問題対策や新しいコンセプトの社会に適した機能や性質を持つマテリアル開発が求められ、私はその中でもコンピュータ・シミュレーションを使った金属材料の研究を行っています。複数の元素を様々な比率で混ぜ合わせ、加熱や冷却、変形によって材料が製造される過程をシミュレーションで正しく予測することは、決して簡単なことではありません。しかし、ここにデータサイエンスが導入されることで状況は一変しつつあります。観測データを数値モデルに融合させてシミュレーションの精度を向上させる「データ同化」により、従来時間を取られていた試行錯誤が大幅に低減し、材料研究を加速化する試みが進められています。
例えば、高品質な材料を製造するには、液体の金属を型に流し込む鋳造の段階で、固まっていく結晶の形やサイズを制御することが非常に重要になってきます。現在はその成長の様子をコンピュータで予測することが可能です。図1は私の研究グループで開発した数理モデルによるシミュレーション結果です。雪の結晶と似た形で凝固する金属結晶デンドライトが、どのような形や速度で成長していくのかを試行錯誤なく予想できるようになってきましたが、現在、データ同化によってこの予測精度が大幅に向上しつつあります。

天気予報からマテリアルのフォアキャストへ
データ同化は、私たちが日々チェックしている天気予報に活用されています。天気予報のようにいくつもの物理現象を同時に考慮しながら、マテリアルの内部状態や特性を予測する時にも、データ同化の力が発揮されます。天気図にも似た流線を描いている図2は、Sn-Bi合金が凝固していく様子をシミュレーションで予測したものです。白い流線は液体中の複雑な流れを表しており、左下に見える亀裂のような線からはBi濃度が不均一であることを読み取ることができます。こうした材料内部の複雑な状態を予測する際にもデータ同化によって予測精度が大幅に向上します。データ同化の手法を手に入れたことで材料科学のフィールドは新たな段階を迎え、大きくかつ急速に発展を遂げようとしています。

Technical
term
- データ同化
- 観測データを数値シミュレーションになじませることで、シミュレーションの確からしさを高める統計学の方法。