特集 04
新型コロナウイルスの下水疫学 Wastewater-based epidemiology of novel coronavirus

いまこそ社会に役立てるとき
下水疫学の知見でコロナ制圧に貢献を
環境工学部門 水質変換工学研究室
助教
北島 正章
感染流行状況を知る手がかりウイルス遺伝子を下水中に発見
2019年12月に中国・武漢に端を発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的感染流行は、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態となっています。COVID-19の病因である新型コロナウイルスの主な伝播経路はヒト-ヒト間での飛沫感染や接触感染ですが、最近の研究により下水中にウイルス遺伝子が存在し得ることが明らかとなってきています。
新型コロナウイルスは、症状を示さない不顕性感染を引き起こすことが知られており、主に有症者のみを対象とする臨床検査では真の流行状況を把握することが困難であると言えます。一方で、下水調査では、感染者の症状の有無に影響を受けず感染流行状況を評価することが可能です。そのため、下水疫学調査を特定の地域における新型コロナウイルスの侵入、流行状況、分子疫学及び流行収束の判断材料として利用できる可能性があります。
世界初、メディアも注目する下水疫学調査の有用性
私を中心とする国際共同研究グループは、下水中の新型コロナウイルスに関する世界初の総説論文を2020年4月に発表しました。この論文では、下水中における新型コロナウイルスの存在実態に関連する知見を体系的に整理し、COVID-19の流行状況を把握する上での下水疫学調査の有用性を提唱しました。本論文の内容を北海道大学よりプレスリリースし、日本経済新聞を含む複数のメディアに取り上げられました。
現在、我々の研究グループは、複数の自治体の協力を得て下水中の新型コロナウイルスの検出・定量および遺伝子解析調査を実施しています。我々の下水疫学調査により得られた研究成果は、感染拡大防止と社会経済活動再開に向けた適切な政策決定のための判断材料としての活用が期待されます。下水疫学からCOVID-19の制圧に貢献する有用な情報を提供することを目指し、日々研究に励んでいます。

Technical
term
- 下水疫学(調査)
- 北島先生たちの研究グループがWastewater-based epidemiology(WBE)を初めて和訳した学問分野。調査する行為そのものを指す場合もある。