特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.419 2019年07月号

北大総合博物館へ行こう!工学部展示で研究体験

おすすめ展示 02

乱流ボア─砕波がつくりだすエネルギーに満ちた生息地─ The Turbulent Bore – An Energetic Habitat Under The Breaking Waves

私の研究成果を引用した科学映画が
国内唯一の常設上映中です!

環境フィールド工学部門 沿岸海洋工学研究室
准教授
渡部 靖憲

[PROFILE]

出身高校
北海道深川西高等学校
研究分野
海岸工学
研究テーマ
砕波下の混相乱流

一通のメールが運んだ
サプライズ・ニュース

ある日突然、面識のない方から私の研究を参考に映画を製作したので観てほしいというメールを受け取りました。はじめは新手のいたずらメールかと思い、ためらいながらもその映画を観たところ、深い感銘を受けました。砕波や渦、気泡の混入など、確かに私がこれまで研究してきた海岸の波や流れの物理機構が、とても美しい映像と軽快な音楽と共に、物理的に矛盾なく説明されたとても面白い映画だったからです。

メールの差出人は、映画の製作者であるスティーブン・アルバート博士とマリー・アルバート博士でした。私の了解のもと、この科学映画をアメリカやカナダの水族館などに配信したいと考えたようです。それではと、こちらからも北大総合博物館での上映を打診したところ、快諾していただき、日本語の字幕を付けて工学部の常設展示として2019年4月から上映しています。

莫大な海中映像で魅せる
科学映画
「Turbulent Bore」

図1 岩礁海岸に白波と共に押し寄せる乱流ボア(上)と渦に巻き込まれて海中に混入する気泡群(下) Figure 1 : Turbulent bores with aerated wave fronts rushing toward a rocky shore (top), and submerged bubble clouds involved in vortices (bottom).

タイトルの「Turbulent Bore(乱流ボア)」とは、砕波帯で波が砕けると同時に発生する大小の渦に巻き込まれた大量の気泡群と共に海岸へ押し寄せる段波(ボア)のことです(図1上)。ボアの進行と共に発生した渦は変形と分裂を繰り返し(図1下)、海中の栄養分は撹拌され、巻き込まれた気泡から海中に溶け出した大気中の酸素や二酸化炭素は多くの海洋生物に恩恵を与えます。映像の中には無数の渦の中で生き抜く術を身につけたリーフパーチと呼ばれる小魚が登場します。他の魚たちが寄りつかない強い乱流が常に押し寄せるこの浅瀬を棲み処とし、豊かな生育環境を独占しています。

我々研究者が自然界に存在する理論を説明する場合、無数のファクターが存在する現地での実証は難しいため、通常理想的な状態での室内実験や数値計算を行いますが(図2)、驚いたことにこの映画は何年にも渡って撮影し続けた莫大な数の海中映像から理論的根拠を見出したものであり、学術的にも価値ある成果と言えます。美しい岩礁海岸の流れとそこに棲む生物を題材にした科学映画「The Turbulent Bore」で、自然に内在する科学の面白さに触れてください。

図2 乱流ボアが生成したヘアピン状に発達する渦管の数値計算結果 Figure 2 : Computed vortex filaments evolving into hairpin structures under breaking waves.

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博物館展示 ここが見どころ!
映像は2018年製作。上映時間は22分35秒。日本語字幕は渡部先生自身が制作した。日本で常設上映されているのは2019年5月現在、北大総合博物館一カ所のみである。