特集 03
途上国におけるコンクリートインフラの維持管理に対する課題 Challenges in the maintenance management of concrete infrastructure in developing countries

日本の技術移転で世界のインフラを
安全かつサステナブルに!
環境フィールド工学部門 環境機能マテリアル工学研究室 准教授
ヘンリー・マイケル・ワード
維持管理が実施されず、社会インフラ
が劣化するアジアの途上国
私の研究フィールドであるアジア圏の途上国では、国際投資に基づき数十年間で急速な成長を遂げたことにより、健康や安全面で社会生活の質が格段に向上しています。この社会経済の発展を支える基盤のひとつになっているのが、社会インフラである橋梁、道路、鉄道、ダムなどの開発と近代化です。こうした途上国の持続的な発展を実現するためには、新しい社会インフラの建造だけではなく、それらの安全かつ長期的な使用も考慮することが重要になってきます。
社会インフラは長年の外力作用や環境作用で劣化するため、使用期間中の安全性を確保するには、定期的な維持管理が必要となります。近年の日本や北米、欧州では社会インフラの維持管理が話題になり、意識の高い技術や制度が開発されていますが、その一方で途上国ではまだまだ意識が低いのが現状です。さらに困ったことに、それらの途上国には品質管理に関する技術や制度自体が存在しないことから、新しい社会インフラでも短期間で性能が低下するなど、より早く劣化してしまう例が頻繁に報告されています(図1)。

現地調査の結果をもとに
相手国のニーズを汲んで提案
私が研究している社会インフラ技術の国際展開とは、東南アジアの途上国に貢献できる技術移転の戦略を構築するものです。 我々の研究チーム(北海道大学の教員・学生と東京大学の共同研究者)では、ミャンマーとタイにおける維持管理技術や制度の現状及び現地コンクリート構造物の品質や劣化状態に関する調査を行っています(図2)。
その結果に基づいて、相手国の社会インフラ管理者と議論し、それぞれの国のニーズとマッチするソフト(制度や知識)とハード(機械や材料)技術の国際展開を推進しています。例えば、日本人技術者の暗黙知を日本に来る留学生の形式知に変え、帰国後に現地でシェアして意識を高めてもらうナレッジマネジメントなど、日本の経験や技術により、全世界の社会インフラをより安全でサステナブルにすることを目指して研究を進めています。


Technical
term
- ナレッジマネジメント
- 社員一人ひとりが持つ知識や情報を他の社員と共有し、全社的な知識・ノウハウの向上と活用を図る経営手法。