特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.413 2018年01月号

インフラテクノロジー開発拠点、いよいよ稼働

特集 01

基盤(インフラ)の基盤、土の挙動 Behavior of soils as ‘infrastructure for infrastructure’

北大の地盤研究の実験技術は世界屈指
新研究棟でその伝統が次代に続きます

環境フィールド工学部門 地盤物性学研究室 准教授
西村 聡

[PROFILE]

研究分野
土木工学、地盤工学
研究テーマ
地盤挙動の解明とモデル化

土は恵みであり脅威である
世界に発信する北大の地盤研究

ギリシャの哲学者エンペドクレスは、万物の根源(アルケー)は風・火・水・土と考えました。土は、社会を支える基盤のそのまた基盤なのです。ところが、土の挙動は複雑で、堤防の決壊や土石流など地盤に関わる事故や災害は連日ニュースを賑わせています(図1)。なかでも、土と水は密接に関わっており、水分量の変化や凍結などにより大きくその特性を変えます。北海道大学の地盤研究グループでは、堆積後、数百万年の時を経て現在の姿になった自然土や、産業廃材から作り出した新たな地盤材料まで、様々な土の特性について非常に高度な試験装置と技術を駆使して常に新しい知見を見出し、その知見を社会基盤の建設と防災の両面に寄与するため、世界に発信しています。

図1 不安定な地盤に支えられる社会基盤と地盤災害 Figure 1 : Infrastructure on unstable ground and geodisaster.

実験室に地中環境を再現
未来予測のシミュレーションも

土の強さ、固さ、安定性は状況に応じて何百万倍も異なり、未来に向けて変化していきます。土の種類や温度・圧力・含水量・成り立ち方、そしてその年代によって特性が大きく異なるからです。例えば、軟弱地盤中にトンネルを通すために地盤を一時的に人工凍結する場合、私達の実験室では、まず川に運ばれた土が水中で堆積し、長い年月を経て圧縮されて地盤が形成され、そこにさらなる荷重変化(トンネル掘削による除荷)・水圧・温度変化(凍結・融解)やさらなる人為的な変形が加わる様子を、PC制御された土質力学試験実験装置の中で再現します。その上で、目に見えないミクロ単位の微小変形から、破壊に至る大変形まで、その挙動を正確に測定します(図2)。言うならば、試験装置の中に地中を再現しているのです。

このように地下深くの比較的安定した地盤に比べ、地表・海底面近くにある有機質土や泥質は、固体とは呼べないような大変形・流動を起こす軟弱な物質です。これらが数秒かけて急激に、あるいは数十年かけて目に見えないほど緩慢に変形していく様子をモデル化する地盤変形シミュレーションも行っています。土に支えられている50年後の道路や橋、港湾がその形と機能を保つための設計に寄与しています。

新しい研究棟には我々が実験しやすい環境を整えてもらいました。講義にもより適した環境になり、これからが楽しみです。

図2 実験装置内での地中人工凍結の再現 (試験時は装置は密閉される) Figure 2 : Reproducing underground artificial ground freezing in laboratory device.

Technical
term

土質力学試験
土の個々の粒子特性や、集合体としての強度・変形性・圧縮性といった性質を調べるため、 実験室で行う精緻な試験のこと。