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山登り理論〜私のプレゼン準備法〜

 プレゼンテーション(スライドを用いた口頭発表のみならず、ポスター発表、要旨、論文、各種申請書を含む)の構成は、言いたい事を正確に伝え、さらには自分のやっている事を理解いてもらう(時には過大に評価してもらう)ために極めて重要です。以下に私のプレゼンテーション準備法を紹介します。お役に立てれば幸いです。

準備のポイント

 ①「下」から「上」へ積み上げる。
 ②ツリー構造にする(外山 1986「分かりやすい○○の技術」シリーズ)。

山登り理論

 質問です。「山を登る時に考えなければならない一番大切な事は何ですか?」
 答えは「頂上がどこかを確認する事」です。(異論は無いと思います。)
 プレゼンテーションは山登りに似ています。あなたは登山ガイドです。聴衆はあなたの登山ツアーのお客さんです。
お客さんには通る道を納得してもらはないといけません。=プレゼンでは聴衆に研究内容を納得してもらわないといけません。
関係無い道を通ってはいけません。=関係ある内容しか話してはいけません。
楽しんでもらわないといけません。=興味を持ってもらわないといけません。
一歩一歩安全に進まないといけません。=話が飛躍する事無く論理的に各センテンスをつなげないといけません。

これを解決するためには「頂上=行き着く先=Conclusionから考える」のが有効です。

 
FirstSnow
 

Conclusionの部分

 まず、結論を考えます。自分の持っている生データを1枚の紙に1つのグラフだけ印刷し、床にランダムに並べます。全てのグラフのサイズ、縦軸・横軸のスケール(最大値・最小値)は極力合わせておきます。スケールを合わせるのは各グラフの比較を容易にするためです。ランダムに並べるのは、生データはどうしても実験を行った時系列に頭の中に入っているので、これをリセットし、各グラフを有機的に関連づけるためです。実験データは絶対的なものだと思われるでしょうが、サイズが変わると印象が変わります。例えば、あるグラフの縦軸の最大値を倍にしてみてください。同じグラフでも違って見えると思います。変化があると思っていても無い様に見える事もあります。データの統計的処理が重要な理由はここにあります。逆に言うと、グラフの作り方により、同じグラフでも人に与える印象は変わるということです。もちろん、これを悪用してはいけません。
 何度も何度も俯瞰します。あれこれ考えていると、今まで気がつかなかった重要事項が見えてくる事があります。これには数日かけても良いです。十分吟味したら一字一句結論を正確に考えます。結論は極力時間をかけて考えます。もう一字一句結論の文言が変わる余地はないという文章にたどり着いたら、優先順位を考えて重要な結論から順に並べます。

Results and discussionの部分

 次に、結論を導くためにbestな(bestでなければなりません)図または表(絵になる事もあります)を作ります。床に並べたグラフは結論を人に説明するためにbestなものになっていますか?生データは大抵横軸が時間で縦軸が測定した変数になっています。実験は時系列で行われるためです。例えば「アンモニア濃度はCOD濃度と相関が見られた」という結論なら、生データの横軸:時間、縦軸:アンモニアというグラフ1、横軸:時間、縦軸:CODというグラフ2、を合わせた横軸:時間、縦軸:アンモニア+CODというグラフを使いますか?「アンモニア濃度はCOD濃度と相関が見られた」のであれば、縦軸:アンモニア、横軸:CODというグラフが自然ではないでしょうか。さらには軸はリニアが良いでしょうか、対数が良いでしょうか。軸の長さに対する目盛り線の長さは?最大値最小値は?数値の間隔は?線の太さは?マーカーの大きさは?大きさは皆同じで良いでしょうか?線で繋ぎますか?線の太さは?点線にしなくていいでしょうか?二軸が良いでしょうか、二軸ではない方が良いでしょうか?・・・。
 まずは一つの結論に対し一つのグラフを作ります。データが込み入って見づらくなったら二つに分けます。 これらは図1Aと1Bになります。
 ここまで来たらグラフの順番を考えます。この段階で文章を書き始めてはいけません。まずはツリー構造図を作ります(外山 1986「分かりやすい○○の技術」シリーズ)。一概には言えませんが、一般的な広い内容の結果から始まり、徐々に狭く深い内容の結果に持っていくのが一般的かと思います。
 僭越ながら私の論文を参考に説明します。UASB論文(Satoh 2007)では、水質→菌相解析(誰が)→FISH(どこにいて)→マイクロセンサー(何をしているのか)→(さらにマニアックな)拡散係数の算出、という流れになっています。虫穴論文(Satoh 2007)では、底泥の性状→底泥全体の活性→菌相(誰が)→菌体密度分布(どこにどのくらい)→活性(何をしているのか)となっています。
 まずはResults(とdiscussion)をグラフごとに分けます(ツリーの第一分岐点)。Resultsが3章なら、分けられた各部分は3.1、3.2、・・・になります。つまり、グラフの数だけ節(3.1、3.2、・・・)ができます。
 次に、各節(3.1、3.2、・・・)内で内容の切れ目があれば分けます(ツリーの第二分岐点)。ここで、よく文の量で分ける人がいますが、あくまでも内容で分けた方が良いと思います。(文の量で分ける事もあります。)図1Aと1Bを含む節であれば、分けた方が良いでしょう。この分割は段落になります。
 ここまで来たら、やっと文章を書き始めます。論文を読み込むとわかりますが、各段落の最初の文と最後の文は重要です。最初の文章は「図*は・・・を示している。」という文である事が多いです。最後の文章はその段落の結論である事が多いです。この事から、①段落の最初の文と最後の分だけ読めば論文の内容をだいたい把握できる(論文を斜め読みできる)、②一つの段落(=グラフ)には言いたい事が一つだけある(言いたい事が二つの場合も少なからずあります)、という事がわかります。
 文章や発表で使う表現は簡単な文章にした方が良いです。文章は短い方が良いです。書き慣れないうちは、文が長く小難しい言葉を使った方が格好が良いような感じがしますが、簡単な構造で、論文でよく使われる単語を使った方がbetterだと思います。具体的には、動詞で済む表現を名詞+動詞にする人がいます。「変化が見られた」より「変化した」の方が良いと思います。特に「頭痛が痛い」といった表現にならないようにしましょう。
 特に英語で口頭発表する場合。慣れないうちは格好良い発表をしようとして難しい単語を使い舌を噛むよりは、グラフの説明はincrease、decrease、be動詞、など簡単な単語を多用すれば良いのではないでしょうか。
 Resultsとdiscussionを分けるか否か。これには何か法則があるのでしょうか。あるのであればどなたか教えてください。私はまずはResults and discussionで書いてみて、discussionの文量が結構ある場合にresultsとdiscussionを分けます。Resultsとdiscussionの内容が重複してしまうのは良くありません。査読者の印象も悪いでしょう。

Materials and methodsの部分

 ここは(乱暴な言い方かもしれませんが)頭を使わずとも自動的に書く事ができます。結論で示したグラフ内の各データはどのように測定したのか、箇条書き風に書けば良いだけの事です。ここでも順序は一般的な広い内容の結果の方法から始まり、徐々に狭く深い内容の結果の方法を書いていくのが一般的かと思います。上述のやり方でresultsを書いていれば、必然的にresultsに出て来るデータの順番になると思います。

Introductionの部分

 Introductionは自分の研究を正当化するためにあります。自分の研究が如何に重要であるか聴衆を納得させる、極端に言えば洗脳する、為にあります。Introductionで疑問をもたれてしまったら、発表ではきつい質問が来ますし、論文はrejectされるでしょうし、研究費申請書なら研究費が当たらないでしょう。
 Introductionは、実は作るのは大変難しいです。Introductionを書けるようになるには、かなりの情報を仕入れなければなりません。この研究分野では今までに何がどこまでわかっていて何がわかっていないのか。自分のやった事はそのcontextの中でどこに位置するのか。これらを漏らさず書く事は至難の業です。博士課程の学生でも難しいと思います。ですが、今の自分の能力の範囲でやらないといけません。逆に、Introductionに著者のレベルが表れます。Introductionのレベルが高い論文は読んでいてワクワクします。
 学生の発表を見ていると、Introductionをおろそかにしていることが良くあります。ゼミで何度も同じIntroductionを使っていたりします。山登り理論でプレゼンを準備すると、結論が変われば、これより上の部分はすべて変わる訳ですから、Introductionも当然変わるはずです。前回の発表とIntroductionが同じであることは「前回から何も成果が出ていません」と主張していることになります。結論に合わせて毎回Introductionを変えましょう。
 Introductionをうまく書くには「仮想敵国」を設定するのが一つの良い方法です。仮想敵国とは、自分が集めた既発表の論文で最も近い(普通は数編の)論文になります。仮想敵国論文(既発表なのですでに仮想ではないですが)を設定すれば、「これらの論文ではここまで明らかになっている。しかし、○○が明らかになっていない。そこで本研究では○○明らかにすることを目的とする。」というストーリーを作り易くなります。Introductionでは既発表論文にダメだしをするのです。これは自分の論文であることも少なくありません。
 Introductionの出来はとりあえず置いておきます。100点を目指すといつまでもsubmitできませんので。Introductionはどう作るか。ここでも山登り理論が威力を発揮します。Introductionの中に山登り理論を適用します。すなわち、最後の文章から考えます。その後、この文章につながる様に、上に文章を積み上げていきます。Introductionの最後の文章は目的です。「本研究では***を行った。」という文章です。これは結論を疑問文にすればできます。「アンモニア濃度はCOD濃度と相関が見られた」という結論なら、極論ですが必然的に「アンモニア濃度はCOD濃度と相関が見られるかどうか」を明らかにする事が本研究の目的であるはずです。
 次にこの上に来る文章を考えます。これには自問自答が有効です。「何故」アンモニア濃度はCOD濃度と相関が見られるかどうか、を明らかにする事が環境工学的に重要なのか?と考えます。ちなみに、目的の直前の文章は「しかしながら」(英語ではhowever)で始まる文章である場合が多いです。これも当然です。論文とは、今までここまで明らかになっている、しかし、これが不明である、だから自分はこれを明らかにした、という読み物であるはずですから。自分が初めて明らかにした事を新規性と言います。新規性のない論文はあり得ませんので、目的の直前はhoweverになります。
 この後は目的の一つ上の文章が自分の研究分野で何故重要なのか、自問自答します。今後はこれを繰り返します。これを繰り返していくと上に積み上げられた文章は、具体的な狭い内容から徐々に一般的な広い内容になっていると思います。逆三角形のイメージです。どこまで話を広げるかは対象となる聴衆(読者)のレベルで変わります。高校生向けのプレゼンであれば、富栄養化の問題点や硝化脱窒のメカニズムを説明しないといけないでしょうが、Water Researchに投稿するならこれらの長い説明は不要でしょう。
 これが終わったら、今度は聴衆の目線になって上から下に読んでいきます。多少変な流れがあるでしょうから、これを調整します。

Abstractの部分

 Abstractはconclusionとは違います。要約ですので、この研究の重要性、目的、どのような手法で何をどこまで明らかにしたか、を書きます。
 これで作成は終了です。

情報収集の効率化と論文作成法

プレゼンテーション
 スライド

 学会において様々な発表者のプレゼンテーションスライドを見ていると、千差万別です。そして、明らかに個人のセンスに応じてきれいなスライド、そうではないスライド、があります。プレゼンテーションの伝わり方はスライドの見やすさ・きれいさに依存しますので、無視できないファクターです。
スライド作成のセンスに自信がない人は、他人のPPTファイルをもらい、上書きするのが得策です。その他、いろいろなHPを見てみて、センスの良いものを見つけるのも良いでしょう。学会発表のスライドのデザインとしては、あまり凝ったものは却って見にくくなります。私は大手マスコミや大手企業のHPのうち、すっきりしたデザインのHPを参考にしています。

 発表

 発表技術を高めるのは至難の業です。自分の発表と発表のうまい人の違いはなかなか自分では気がつきません。さらには、人に改善部分を指摘されてもなかなか変われないものです。
私は、以下に注意して発表しています。
  • 話す一文は短く切る。
  • 一文の中に出てくるキーワードを、少なくとも一つスライドに示す。
  • 1スライドには約1分使う。
 プレゼンのスライドにも発表にも役に立つものがあります。それは、

テレビのニュース(特に天気予報)

です。ニュースの説明に使われる図表、それらを示しながら話す内容・順番、話す文章の長さ・スピード、図表の色使い、など、一度じっくり観察する事をお勧めします。