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工学部発のア・レ・コ・レ

岩石の風化を促進して
大気の二酸化炭素を鉱物固定する

環境循環システム部門 資源循環材料学研究室
教授 佐藤 努 SATO TSUTOMU

[PROFILE]

出身高校
新潟県立糸魚川高等学校
研究分野
環境鉱物学、地球化学、廃棄物処分工学
研究テーマ
風化促進による二酸化炭素の固定、放射性廃棄物処分の長期性能評価、鉱山廃水のパッシブトリートメント
研究室ホームページ

カーボンニュートラルという言葉を聞いたことがあると思いますが、そのためには早急に大気にある二酸化炭素を吸収する技術を開発し、実用化、ビジネス化していかなければなりません。私は、岩石の風化を促進してカルシウムやマグネシウムを溶出させ、それと大気中の二酸化炭素を結びつけて鉱物として固定する技術の実用化を目指しています。

その技術で最も重要なのは、「どのように風化を促進するのか?」ということになります。イギリスやアメリカでは、玄武岩を細かく粉砕して農地にまくことを考えています(図1)。細かくすることで、非常に遅い岩石の風化を加速しようという考え方です。角砂糖より粉砂糖が早く溶けるのと同じ理屈です。また、農地に岩石をまくことで含まれているミネラル分が作物に吸収されて成長を促すことになるかもしれません。しかし、硬い岩石を細かく粉砕するためにはエネルギーが必要で、そのエネルギーを生み出すときに二酸化炭素を排出してしまいます。そこで私は、鉱山から出てくる強い酸性の廃水(図2)と岩石を反応させることを思いつきました。pH が2-3程度だと、1万倍以上加速できる可能性があるからです。もともと有害な物質が含まれているので処理が必要な廃水ですが、岩石の風化促進と廃水処理の一石二鳥を目指しています。

図1: 玄武岩の粉末(灰色の部分)を農地に散布している様子(共同研究をしている京都府立大の中尾淳先生ご提供)
図2: カンボジアの小規模金鉱山から流れ出ている酸性鉱山廃水