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工学部発のア・レ・コ・レ

超音波を用いた「食べやすさ」の流動物性評価

機械・宇宙航空工学部門
流れ制御研究室
准教授 田坂 裕司

[PROFILE]

出身高校
徳山工業高等専門学校
研究分野
流体力学
研究テーマ
乱流遷移、熱対流、混相流、レオメトリ

粘性や粘弾性などの流動物性は、医療や理工学、農学などの幅広い範囲で、流動性や組成を評価する指標として使われています。通常は、トルク式レオメータと呼ばれる計測器で定量化されますが、食品のように固形物など分散相がある場合、蒸発や化学反応などにより状態が時間変化する場合には信用できる結果が得られません。

私たちの研究室では、不透明な液体の瞬時速度分布計測が可能な超音波流速分布計を用いた、新たなレオメータを開発しました。図1のような円筒に測りたい流体を入れて振動させ、計測した速度分布から振動に対する変形(写真下)を評価、これを元に、流れの運動を決める方程式から物性を逆算します。

これまでに高分子溶液や粘土懸濁液など複雑な流体の試験を行ってきましたが、現在は北大病院と共同で、「食品の食べやすさ」を評価する手法として開発を続けています。図2は「フルーチェいちご」から得られた結果で、縦軸は粘性、横軸はせん断「ひずみ速度」の強さです。振動を続けることで、特に「高ひずみ速度」での粘性が低下している様子が分かります。

このような繰り返し振動とせん断により咀嚼と嚥下の状況を模擬できれば、「食べやすさ」を定量的に表すことができると考えています。

引用:1. Yoshida et al. Phys. Fluids(2019)、2. 田坂他、月刊ファインケミカル(2021)

図1 計測中の「フルーチェいちご」(上)と、計測結果から再現した 円筒の振動に対するフルーチェ内の変形(下)
図2 フルーチェの粘度曲線とその時間変化