特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.422 2020年04月号

量子力学超入門

特集 03

量子で繋ぐ安全なネットワーク Development of secure network based on quantum mechanics

観測できないものが“ある”世界
アイデア勝負の面白味も

応用物理学部門 半導体量子工学研究室
准教授
笹倉 弘理

[PROFILE]

出身高校
富山県立富山中部高等学校
研究分野
量子光学、半導体スピン物性
研究テーマ
半導体量子ドットを用いた量子ノードの開発

量子の不確定性を強みに変え情報セキュリティ向上に寄与

個人情報の流出や「なりすまし」の報道からもわかるように、多様な情報サービスが提供されている現代のネットワーク社会において、電子化された情報のセキュリティ確保と処理能力向上のニーズは高まり続けています。私の研究テーマは、こうした社会情勢を前提にした半導体量子ドットを用いた量子ノードの開発です。中央演算処理装置(CPU)・メモリなど現在の情報処理デバイスは半導体素子の集合体で構成されています。これまでのデジタル式情報処理の枠組みでは量子の不確定性が誤動作の要因になるかもしれないと敬遠されていましたが、逆にこの不確定性を強みに変え、量子の力を積極的に用いて情報のセキュリティや処理能力を高めていくことを目的としています。例えば、「なりすまし」を防ぐ量子暗号の研究もそのひとつ。もし情報の盗聴者がいた場合、観測された時点で量子の状態が不確定から確定に変わることで「盗聴者がいた」という痕跡が残り、セキュリティ強化に寄与できると期待しています。量子暗号の実用化も、そう遠くない未来なのかもしれません。

図1 (左)量子ドット内蔵型光ファイバーデバイス。(中央)ナノピラーアレイ化を施した半導体量子ドットのSEM像。
(右)光子数が1であることを示した結果。 Figure 1 : (Left) Quantum-Dot-in-Fiber device. (Center) SEM image of nano pillar array. (Right) Anti-bunching behavior.

量子ドット内蔵型光ファイバーデバイスを開発

超伝導体・半導体・光など様々なプラットホームで個々の強みを生かした量子ノード・量子プロセッサの開発は、世界中で盛んに行われています。さらには、それらの独立した系に「相関」を持たせる量子ネットワーク系を構築するため、光ファイバー通信網の活用が求められています。光の素粒子である「光子」の数が確定した特殊な状態が、光ファイバー通信網を介する「量子」として最も適しているのです。

私の研究室でも前述の「なりすまし」対策として、現行の光ファイバー通信網と親和性の高いデバイスの実現に向けて、半導体量子ドットを光ファイバーに内蔵する技術を開発しています(図1)。このデバイスは驚くくらい簡単かつ安価な素材でできています。ナノメートルスケールの狭い空間に閉じ込められた電子のエネルギーは量子化し、そこから「パウリの排他律」の助けを借りて特殊な状態の光が発生します。こうした量子ドット内蔵型光ファイバーデバイスを用いると、異なる量子ノード間を簡便に結合させることができるため、複合システムによる高機能化を目指しています。