特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.420 2019年10月号

私のEureka!

特集 01

分子たちが手をつないでいた!
〜希土類配位高分子の発見〜 Molecules connected both hands!
‒ Discovery of lanthanide coordination polymer ‒

思い通りにならないときこそ
Eureka!の入口にいる。

応用化学部門 先端材料化学研究室
教授
長谷川 靖哉

[PROFILE]

出身高校
愛知県一宮高校
研究分野
光化学
研究テーマ
希土類光化学

実験から生まれた謎の物質
赤く光る白色粉体の正体は?

私の専門は錯体光化学です。錯体とは、金属と有機分子が結合したものを指します。私はこれまで大阪と京都および奈良で研究活動を続け、2010年4月に北海道大学工学研究院に着任しました。そこで新たに出会ったのが「配位高分子」です。一般の高分子は有機分子同士が強く結合しているのに対し、配位高分子は金属イオンと有機分子がゆるやかに結びつき、それが単一分子ではなく高分子になっていた点が非常に新しい発見となりました。

それは実験を行っていた学生の偶然の発見から始まりました。当初は特殊な構造の希土類錯体(希土類イオンのまわりに有機分子を取りつけた単一分子で、美しい発光を示す)を合成する予定でしたが、あるとき有機溶媒に全く溶けない物質ができてしまいました。そこから得られた白色粉体は、赤色によく光るが構造がわからない。謎の物質を作ってしまったのです。

工学・理学の連携で謎を解明
従来の常識を覆す新発見!

通常なら謎の物質はお蔵入りですが、あまりにも強く赤色に発光する白色粉体が気になった私は、その構造を調べるために北海道大学理学研究院の加藤昌子教授にご相談し、液-液拡散法という単結晶作成方法を教えてもらいました。

この結果こそがまさにEureka! できた結晶の中では希土類錯体が手をつないで規則的に並んだ配位高分子を形成していたのです(図1)。金属錯体が高分子化する例は当時あまり報告されておらず、強く光る特性や熱耐久性も有することが明らかになりました。

図1 希土類イオン(顔部分)と有機配位子が結合(握手部分)して、長いポリマー構造を形成している。 Figure 1 : Formation of polymer structure constructed by connection (handshaking) between lanthanide ions (face) and organic ligands.

企業も熱いまなざしを注ぐ
「カメレオン発光体」

謎の物質から転じた、新しい「希土類配位高分子」は現在、その発色を活かして化粧品のネイルやカラオケハウスのインテリアなど皆さんの身近なところで活用されています。また、温度によって色が変わる特性にも着目し、熱に強く温度センサーにもなる「カメレオン発光体」(図2)を作ることにも成功しました。これらの研究成果は、多くのメディアに紹介されています。

この希土類配位高分子の研究は8年目を迎え、今も進化しています。最新のディスプレイや発光印刷ポスターなど企業連携による応用展開と並行し、食物の成長を促す光として北大のロバスト農林水産工学研究にも参加しています。いい意味で“なんでもあり”の材料と出会うことができ、これからも学生や企業と一緒に研究開発そして応用を楽しんでいきたいと考えています。

図2 カメレオン発光体:光誘起エネルギー移動における活性化エネルギーの存在を証明 Figure 2 : Chameleon luminophore:the first observation of activation energy on photo-induced energy transfer process.