特集 03
地球にやさしい船舶をデザインする仕事
〜生き残りをかけた研究~ Design of marine vessels kind for the earth
– Research for surviving -
「やってみないとわからない!」
失敗の先に踏み出す意欲を大切に。
エネルギー環境システム部門 流れ制御研究室
教授
村井 祐一
「3本の柱」が救った
絶体絶命のピンチ!
「この開発はもう将来がないだろうね」――。今から20年前、ある大手造船会社でひとつの技術開発が座礁しかかっていました。船舶のまわりを細かい泡で包み、抵抗を少なくして進みやすくすることで船舶燃料に依存せずに大幅な省エネを実現する空気潤滑法という技術でした。まるで小学生でも思いつくような発想ですが、実際のところは予想以上に困難続き。多額の研究開発費が泡と消え、設計者の熱意も徐々に失われていきました。
そんな出口が見えないなか、原子力や風力を専門とする一助手だった私に、その造船会社の部長から一本の電話が入ります。「造船学の技術史に残る恥にしたくない。泡の専門家の助けが必要だ」とのことでした。それを聞いた私の研究人生はまさに面舵一杯、船舶の将来のために使うと決意しました。ところがです。1年に及ぶ実験は気泡によって壁面摩擦が増えるという最悪の事態に陥りました。造船会社には実験の不具合について言い訳を重ね、修論に追われる学生たちは頭を垂れる日々…。私自身も本業である原子力プラントの蒸気発生器の研究と、特殊な翼性能をもつ風力発電の研究を再開し、研究費とメンタル両方のバランスを保つようにしました。
そんなある日、船舶、原子力、風車の3つの研究が私の頭の中で混線を起こし、妙な考えが浮かび上がってきました。船舶用の気泡発生装置に、風車で使う翼を使い、なおかつ原子力で知られる二相流の不安定現象を使うというものです。Eureka! それは「水中翼型気泡発生装置」と命名され、そこから一気に色々な実装設計案が沸き上がりました。3つの分野で異なる研究対象をもっていたがゆえにたどりつけた新境地、まさに研究の醍醐味を体感した瞬間でした。
温暖化ガス輩出削減の
面舵を取る日本の造船技術
この水中翼型気泡発生装置(図1)は、船が前に進むと翼の上に勝手に空気が入り込み、翼がつくる流線どおりに下流に運ばれるというものです。NEDOのプロジェクトで大型船舶に本装置を多数装着した結果、最大で14%の省エネを記録し、現在公開されている空気潤滑法の中で世界最高性能の座を保っています。
海上試験も徐々に拡大し(図2)、この技術は今、日本発の造船革命として世界で急成長しています。開発を促す最大の駆動力は、地球共通課題である温暖化ガス排出削減です。日本、中国、韓国の3カ国が造船業の90%のシェアを占めるなか、日本の技術が省エネに寄与する海運業の面舵を取っている―。というわけで最後は冒頭と真逆の言葉で終わりたいと思います。「この開発には造船学の将来がかかっている」。