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送液ポンプ(ペリスタポンプの作製)
はじめに
連続培養する場合など、送液ポンプが必要な場面は多々あると思います。培養スケールによりますが、我々の実験で必要な送液流量は<1mL〜数L/minの範囲が多いです。この流量範囲の場合、使用する送液ポンプはペリスタルティックポンプ(ペリスタポンプ)またはマグネットポンプの二種類程度になるかと思います。
ペリスタポンプとマグネットポンプの特徴は以下の通りです。
ペリスタポンプ
- 液体、気体のどちらも送液可能。
- 小さい流量で使用できる(間欠運転するなら< 1 ml/minの設定も容易)
- 無菌状態で使用できる(送液ラインのチューブを取り外して、ライン全体がオートクレーブ可能。マグネットポンプはポンプ本体をオートクレーブしなければならないが、そういった仕様は一般的でない。)
マグネットポンプ
- 基本、液体しか送液できない。
- 数L/min以上の大きい流量が基本、小流量には不向き。
- 用途例:恒温水の循環
使用時の設定流量は培地作製量でおよそ決まるかと思います。例えば、1週間に一度の頻度で培地を10L作製して、培地を1週間連続供給することを考えると、流速1 ml/min (10,000 ml÷(7 day × 24 h × 60) min)です。うちでは100〜200Lの培地を作って、送液する場合もありますが、この場合でも流量はせいぜい20 ml/min程度です。この流量範囲ではおのずとペリスタポンプしか使えないのでペリスタポンプがうちのラボでは大活躍しています。
ペリスタポンプの必要台数はリアクターの装置構成によって異なります。単純に培地を通水、オーバーフローさせるだけなら1台で事足ります。一方、sequencing batch reactor(SBR)やファーメンターの場合は複数台必要です。私のラボで一番ポンプを使っている膜分離リアクター(MBR)では、4台必要です (基質流入、膜引き抜き、余剰菌体引き抜き、pH調整剤添加)。こうしたリアクターがいくつか稼働しはじめるとラボの中でペリスタポンプの争奪戦が繰り広げられます(調子の良いポンプほどすぐに無くなる)。
ペリスタポンプは市販品で安価なものを探すと6万から12万/台で見つけることができます。私のラボでは培養装置が多数稼働するため、数十台のポンプが必要となり、これを市販品でまかなうことは金銭的に難しかったので、ポンプを自作することにしました。はじめに書いておくと、ペリスタポンプはとても簡単に作れます。費用はポンプヘッド次第ですが、0.3〜2.7万/台です。以下、ペリスタポンプの作製方法を紹介します。
材料
- ポンプヘッド: 流量範囲によって異なります。私のラボでは以下の三種類を使っています。WPM1およびWP1200はいずれもファーメドチューブ(耐薬品、低ガス透過性)を指定しています。INTLLABはおそらくシリコンチューブなので(流量次第でしょうが)嫌気培養には不向きかもしれません。
- i) チュービングポンプWPM1 (Welco, WPM1-P2AB-WP) 流量1〜5 ml/min、価格帯: 1万円程度
- ii) チュービングポンプWP1200 (Welco, WP-1200-P8*12AA-T8CO) 流量 0.5〜1 L/min、価格帯 2万円程度
- iii) INTLLAB 12V DC DIY小型蠕動ポンプ (Amazon, ASIN: B07GNBNTW3) 流量5〜40 ml/min、
- 使い分けとして、WPM1は小流量なので基質流入、余剰菌体引き抜き、pH調整剤添加に使用します。WP1200は大流量なので膜引き抜きやクロスフローろ過で使用します。INTLLABはポンプが相当数必要な場合(オートサンプラー、オンライン分析装置など)やエアレーション、pH調整剤添加などで使用します 。なお、WPM1は最小流量が1 ml/minですがタイマーと組み合わせて稼働させる(例えば、10秒ON、10秒OFFの繰り返し、タイマーの記事を参考)ことで、より少量の流量でも運転できます。
- 電圧調整器: ペリスタポンプの流量はポンプヘッドの回転速度で調整されています(回転速度が大きい=流量が大きい)。回転速度はポンプに供給する電源の電圧に依存します。つまり、電圧が高いほど回転速度が速くなり、流量が多くなります。そのため、流量を調整するには電圧調整が必要です。ここでは市販品で使いやすいものを2種類紹介します。
- LM2596 DC LED降圧コンバータ (Amazon, ASINB013DXT1LY)、1600円程度
- PWMハイパワーDCモータースピードコントローラ (秋月電子通商) 250円
- 前者の方はデジタル表示で電圧を設定・確認できます。後者の方はダイヤル式で電圧を調整するものです。デジタルで調整できると流量調整の再現性がとりやすいので前者を使用する場合が多いです。
- 収納ケース: ポンプヘッドと電圧調整の基盤がおさまればなんでも構いません。以下、例です。
- WPM1とINTLLAB: タイトボックス NO.11 あるいはチップの空き箱
- WP1200: タイトボックス NO.12
- スイッチングACアダプター: 24V0.5A (秋月電子通商M-02213)、WP1200の場合、24V1A(M-06240)
- DCジャック パネル取付用MJ-14 (秋月電子通商C-06342)
- トグルスイッチ1回路2接点(ON-ONタイプ) (秋月電子通商 P-03913)
- 電線(単芯のワイヤ): 例えば、耐熱通信機器用ビニル電線 2m×10色 (秋月電子通商 P-08996)
- ワイヤーストリッパー (例えば、ベッセルワイヤーストリッパー 3500E-1)
- はんだごて、はんだ
- 電気ドリルとドリルビット、ホールソー (ポンプヘッドによってサイズが異なります。)
- ドリルビット、ホールソーは色々とケース加工で使うのでセットで購入しておくとなにかと便利です。例えば、E-Value 鉄工用ドリルセット チタンコーティング 丸軸 21本組 ETD-21S-T (Amazon ASIN B003EIC44K)。MOHOO 13PCS 16-53mm HSSドリルビット ホールソーセット (Amazon ASIN B06XKWNHHR)。
- M3ネジ(ケースの厚さ次第ですが長さ 5 mm(秋月電子通商, P-10358), 8 mm(P-10359), 10 mm (P-03000)があればおよそ用足ります)、M3ナット(P-03584)。
- プラス、マイナスドライバー、ノギスなど汎用工具
作成方法
図のような回路を作製して、ケースに収めるだけの簡単な工作です。以下、INTLLABのポンプヘッドを空きチップケースに装着してポンプにした例です。ポンプヘッドのサイズが異なるだけで、作成方法はどのポンプヘッドも共通です。(写真にはArduinoも部品として入っていますが、Arduinoは今回の工作では使いません)
ポンプヘッドの太さをノギスで測定し、その大きさの穴をケースにホールソーで開けます。INTLLABのポンプヘッドは28mm径だったので30mm径のホールソーで穴を開けました。下穴として2mm程度の小さな穴をまず開けてから、ホールソーで穴をくりぬきます。ホールソーや口径の大きいドリルビットで穴を開ける場合、最初は優しく押してて、ゆっくりと穴をくりぬいていきます。そうすると薄いプラスチックでも割れることがありません。
ポンプヘッドを穴にはめ、ポンプヘッド固定用のネジ穴を開けます(写真左)。今回はM3ネジなので3 mmドリルです。今回は電圧調整にLM2596 DC LED降圧コンバータ(付属のスペーサーを装着)を使用します。この基盤をケースの側面に取り付けます。基盤をケースに当て、ネジ穴の部分にマジックで印をつけます。印の位置でネジ穴を開けます。3 mmドリルです。
ポンプヘッドと反対側の側面にDCジャックとトグルスイッチ用の穴を空けます。位置はどこでも構いません。DCジャックは9 mm、トグルスイッチは7 mmの穴を開けました(写真左、バリが汚くてすいません)。ホールソーと同じく、最初は優しくドリルを当て始めるとケースが割れません。今まで開けた穴にポンプヘッド、降圧コンバーター、DCジャック、トグルスイッチを固定します(写真右)。
最初の回路図のように電線をつなぎ、ハンダ付けします。ハンダ作業がやりづらい場合、部品を外してハンダ付けの作業をしてください。コンバーターは基盤に書いてある通り、IN側とOUT側があります。IN側がDCジャックとトグルスイッチ、OUT側がポンプヘッドです。DCジャックは内側の金具がプラス(+)極性です(センター+)。外側がマイナスです。
このページの解説ではLM2596 DC LED降圧コンバータを使用しましたが、PWMハイパワーDCモータースピードコントローラを使用する場合、スピードコントローラーからは4本の電線(黒、赤、橙、青)が出ています。コントローラー電線黒はポンプヘッドのマイナス、電線赤はポンプヘッドのプラス、電線橙はDCジャックのプラス、電線青はトグルスイッチ(=DCジャックのマイナス)に接続します。秋月電子通商のHPHPで説明されている通りです。
ACアダプターをDCジャックへ接続し、稼働させてください。コンバーターの設定電圧を変更することでポンプの速度を変更できます。水濡れ等が気になる場合、絶縁スプレーをかけておくと(ほんの少し)安心です。必要な箇所も絶縁してしまわないようにマスキングを忘れずに。
10台くらいまとめて作製しておくと、実験室内でのポンプ争奪戦が解消され、とても便利です。また、以下のオートサンプラーや比色分析計を作る場合も複数のポンプが必要になるので、作製できるようになっておくと便利です。