概要

概要

 プラズマ材料工学研究室(富田・信太研究室)では、主に以下の研究を進めています。

  1. 産業応用プラズマの制御・最適化や新応用に関する研究(富田)
  2. 核融合炉材料中の水素同位体挙動の理解と水素制御技術への応用に関する研究(信太)

産業応用プラズマの制御・最適化や新応用に関する研究 (富田)

プラズマ中では通常の環境下では起らない物理的、化学的反応が進みます。そのような特性を活かし、プラズマの工学応用はあらゆる分野で展開されています。
(「未来をつくるプラズママップ」 http://stw.mext.go.jp/series.html

・プラズマが介在することで起こる工学上の問題点
 その一方で、反応の主体であるプラズマは、プラズマ生成のための外部入力条件(放電生成プラズマであれば電圧・電流やガス条件など)に非線形な応答を示します。そのため、プラズマがどのような状態かを把握することが必要ですが、プラズマを特徴づける、プラズマ内の自由電子状態などは計測が困難な場合もあります。この結果、プラズマ自身がブラックボックスとなってしまい、入力→プラズマ状態→出力(プラズマによる様々な作用)の因果関係があいまいとなる事例が往々にして見られます。これまでは、研究者や現場技術者の勘やスケーリング則など、経験的手法を中心にプラズマ利用が進められてきた面があります。しかしこのような手法は、開発に膨大な時間とコストが必要となる可能性があります。


・プラズマは「見えて当然」の時代に-
 レーザーを用いた徹底的なプラズマ電子計測 - プラズマ中で把握すべき物理量は多々ありますが、その中でも自由電子の状態(電子密度・電子温度)はプラズマを知るうえで最重要のパラメータとされています。例えば本研究室で進めている半導体リソグラフィー光源用プラズマの最適化研究では、光源となるレーザー生成プラズマの電子密度・電子温度を制御し、最適なイオン価数を実現することを目標としています。最新のリソグラフィー(極端紫外光源、EUVリソグラフィー)で必要な光の波長(13.5nm)はプラズマの電子温度を30-50万度に制御する必要があります。もしプラズマの温度が30万度ではなく20万度の場合、13.5nmの光出力は、桁違いに減少します。一方でリソグラフィー光源開発企業は、光源のわずかな出力増加を争っています。これらの事実は電子温度の制御が、エンジニアリング上極めて重要であることを示しています。しかしEUV光源プラズマはその特殊性(微小・短寿命)から、詳細な計測が困難とされてきました。この問題に対して、本研究室ではレーザー散乱法を用いて、高空間分解(50マイクロメートル以下)・高時間分解能(5ナノ秒以下)での電子密度・電子温度・平均イオン価数の空間分布一括計測を達成しました。この計測はEUV光源用プラズマのために最適設計された分光計測システムを、新たに開発することで達成されたものです。研究成果は共同研究先企業との共著論文としてScientific Reports(https://www.nature.com/articles/s41598-017-11685-0)や、報道記事(https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP458996_S7A001C1000000/)として発表されています。この技術により、EUV光源プラズマの開発上、特に重要な電子温度を含む電子パラメータ情報を時間・空間的に可視化できることになりました。今後この強力なツールを利用して、EUV光源を含むプラズマX線光源のさらなる高効率化が実現されることが期待されます。


図の説明:図の左から右に照射されたレーザーにより加熱されたプラズマ(EUV光源)が中心に集まる流れを持ち、その流れが高出力化に貢献していることが初めて明かとなりました。当研究室は世界で唯一、密度・温度・流れといったEUV光源プラズマの内部情報を可視化する計測技術を有しています。


上記内容は研究テーマの一例です。レーザーを用いたプラズマ計測研究はその他にも、大面積薄膜プロセス用プラズマ、大気圧非平衡プラズマなどがあります。計測技術を活かし、電力遮断器内アークプラズマ、実験室宇宙物理、超短パルス放電、直線ヘリカルプラズマの揺動計測、などを対象として国内外の公的研究期間や一般企業との共同研究も積極的に進めています。配属された卒論生・修論生には、計測を切り口として、最先端の研究に携わってもらいます。

核融合炉材料中の水素同位体挙動の理解と水素制御技術への応用に関する研究(信太)

     二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギー源である核融合炉の研究・開発が世界各国で行われています。核融合炉では,水素の同位体である重水素と三重水素を燃料として使用します。その中の三重水素は放射性物質であり,核融合炉から外の環境中に漏れることがないよう安全に取り扱わなければなりません。このような理由から,核融合炉材料の内部における水素同位体の挙動をあらかじめよく把握しておく必要があります。具体的には,核融合環境下において,材料中にどのくらい水素同位体が入りこむのか,材料内で水素同位体がどれくらい移動するのか,いったん材料内に入った水素同位体はどのくらいの温度で外部に出てくるのか,などです。これらの知見は三重水素を安全に取り扱う上で,さらには核融合炉を実現する上で必要不可欠です。

     本研究室では,水素イオン・プラズマ照射装置や水素の移動・放出を測定する装置,材料内の水素を検出する装置などを使って,核融合炉材料の水素同位体挙動を調べる実験を行っています。核融合炉で使われる材料は,他の科学分野ではみられないような過酷で独特な環境で使用されるため,そのような環境を模擬した実験を個々の研究室で行うことが難しい場合があります。例えば,核融合反応で発生する中性子を材料に照射する実験や大きな熱負荷を材料に与える実験,放射性物質である三重水素を使用した実験,などです。このような特殊な実験を行うため,他大学・研究機関と協力し,核融合炉に近い環境を模擬した実験も行っています。

     核融合材料に関する研究を行っていると,他の分野では見られないような変わった物理現象に出くわすことがあります。なぜかというと,上に書いたように,核融合炉材料はとてもユニークな環境で使用されるため,他ではあまり見られないような現象が起きるからです。例えば,核融合プラズマの周辺で使用される材料はたくさんのヘリウムや中性子,不純物(炭素や酸素)などの照射を受けます。これによって,材料中の水素同位体の挙動がもとの状態とは大きく変化することがわかってきました。それらの現象を応用することで,これまでとは違ったアプローチによる新たな水素制御技術を生みだせる可能性があります。本研究室では,核融合分野で得られた知見をもとに,材料中の水素の動きを妨げるあるいは促進させる手法の開発や,新たな水素精製技術の開発も行っています。

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