キーワードは 電気化学プロセス を用いた 材料表面科学
 
水は水素と酸素から成っていますが、水を水素と酸素に熱分解するためには4000℃以上の高温が必要です(水の直接熱分解)。一方、電気化学を用いると、理論分解電圧1.23Vで簡単に水素と酸素に分解することができます(水の電気分解)。このように、電気化学は物質を簡単に変化させる、ものすごいパワーを持っているのです。
 
わたしたちの研究室では、電気化学の力を用いて金属材料表面の微細構造を自由に制御することにより、革新的な特性を生み出す研究開発を進めています。 高額な装置や複雑な手法は必要無く、簡単な電気化学プロセスを用いて、まるで魔法をかけたかのように 表面を変える すると、これまでに無い 不思議な性質 が現れます。
 
これから、電気化学を用いて新しい材料表面科学の世界を切り開くのは、若いみなさんです。
一緒に、新しい表面を創り出しましょう。 
材料の表面が変われば、材料の全てが変わる。
 
最近の主要な研究テーマについてご紹介します。
 
 
 
研究紹介の動画(音声有)
※この動画は、オープンキャンパスに参加する高校生用に作成したものです。
 
 
 
 
誰でも、簡単に、安価に、高規則ナノマテリアルを作製する技術
 アルミニウムを電気化学的に陽極酸化(アノード酸化)すると、ナノスケールの微細孔をもつ酸化アルミニウム皮膜(ポーラスアルミナ)が生成します。近年、特定の電解質水溶液を用いてアノード酸化条件を特異的に制御すると、ポーラスアルミナのナノ細孔が自然に規則配列することがわかってきました(ポーラスアルミナの自己規則化)。アノード酸化プロセスの高度化によって細孔直径や細孔間距離を数十〜数百 nmの範囲で幅広く制御した高アスペクト比・高規則ポーラスアルミナ形成法の確立を目指すとともに、これらの高規則微細構造を用いてナノフィルターやプラズモニックデバイス、構造色基板など、さまざまなナノデバイスへ応用することに挑戦しています。
 
 
高アスペクト比・高規則ポーラスアルミナの電子顕微鏡写真
This figure is licensed under a Creative Commons Attribution 4.0 International License, M. Iwai et al., Sci. Rep., 11, 7240 (2021).
 
 
高規則ポーラスアルミナの高度なナノ構造制御
Reprinted by permission from Elsevier Ltd, A. Takenaga, et al., Electrochim. Acta, 211, 515 (2016).
 
 
 【動画】自己規則化ナノ構造が発現する可視光の選択的反射:構造色
 
 
 
 
表面微細構造によって液体の濡れ性を制御する 
 材料表面のマイクロ・ナノ構造は、液体の濡れ性、例えば親水性や撥水性にとても強い影響を及ぼしています。電気化学的なプロセスを用いて金属材料表面の微細構造をシングルナノメータースケールで制御し、高速で水が濡れ広がる超親水性、水をよく弾いてすぐに滑り落ちる滑落型超撥水性、水を弾くがとてもよく密着して離れない密着型超撥水性、さらに油をも弾く超撥油性など、材料表面における液体の濡れ性の制御と高度化に挑戦しています。
 
 
【動画】滑落型超撥水性(水を弾いて、よく滑り落ちる)
 
 
【動画】密着型超撥水性(水を弾くが、よく密着する)
 
 
【動画】超撥油アルミニウム板(右)に油を滴下した際の様子
This figure is licenced under the Creative Commons Attribution 4.0 Licence (CC BY), T. Kikuchi et al., J. Electrochem. Soc., 169, 053509 (2022).
 
 
 
 
表面構造の最適設計に基づく高耐食性材料の開発
 私たちの社会ではさまざまな金属材料が用いられていますが、金属材料が錆びる現象(電気化学的な酸化反応:腐食)は自然の摂理で避けようがありません。しかし、材料表面の化学組成やナノ構造を高度に設計することにより、腐食速度を非常に遅くして、長期間メンテナンスする必要の無い金属材料を創り出すことができるかもしれません。何十年、何百年と朽ちることなく安全に使用できる「超」寿命の金属材料を開発し、サステイナブル(持続可能)な社会の構築に資することを目指しています。
 
 
高耐食性不動態皮膜の高分解能電子顕微鏡分析
This figure is licenced under the Creative Commons Attribution 4.0 Licence (CC BY), M. Iwai et al., ECS J. Solid State Sci. Technol., 9, 044004 (2020).
 
従来に比べて10倍以上耐食性をもつ不動態皮膜の電気化学的評価
 
This figure is licenced under the Creative Commons Attribution 4.0 Licence (CC BY), Y. Suzuki et. al., J. Electrochem. Soc., 166, C261 (2019).
 
 
 
 
材料の表面を制御して、電気エネルギーをとりだす
 2つの異なる化学物質を接触させると、それらの表面が電荷を帯びて帯電します(接触帯電)。接触帯電により生じた電荷を上手に移動させる仕組みを作ると、電気エネルギーとしてとりだすことができます。私たちの研究グループでは、ナノ構造を制御した材料表面に水滴を滴下した際に生じる電荷を電気エネルギーとして取り出すミニ発電機「水滴発電機」の開発に取り組んでいます。街中には屋根や外壁など莫大な表面をもつ材料がたくさんあります。これらの表面にほんの少しの工夫を加えることにより、雨天時に大量の発電が可能になるかもしれません。私たちの社会のエネルギー源を分散し、さまざまな種類の発電機をミックスして張り巡らすことにより、環境負荷の低減と人類社会の発展が両立することを目指しています。
 
 
【動画】水滴発電機に水滴を滴下した際のスーパースローモーション
 
 
【動画】水滴発電機によるLEDの連続点滅
 
 
 
 
 
大学は学びの場です。
学生は教員から学びますが、教員もまた学生から学びます。
 
教員も、学生も、立場は関係無く、
お互いに学び合いましょう。
お互いに誠実で、真摯であるようにしましょう。
そして、研究活動をとおして、お互いに成長していきましょう。

 

 
 
菊地 竜也(きくち たつや)
 北海道大学大学院工学研究院 材料科学部門 准教授
 北海道大学 産学・地域協働推進機構 准教授 兼任
 
略歴
北海道大学大学院工学研究科分子化学専攻博士課程修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員(DC1)、株式会社フルヤ金属研究員、北海道大学大学院工学研究科分子化学専攻助手、同工学研究院材料科学部門助教を経て現職。この間、放送大学非常勤講師。
 
趣味
ウイスキーを少々、あてもない散歩、水泳(足を怪我してお休み中)
 
研究室を訪問したい、質問してみたい、など何かございましたら、お気軽に下記までご連絡ください。
e-mail: kikuアットマークeng.hokudai.ac.jp(アットマークを@に変更してください)
 
 
 
 
 エコプロセス工学研究室では、教員であろうが学生であろうが、立場に関係無く世界最先端の材料表面科学を創り上げていきたいと考えています。「世界と勝負する独創性のある研究」を行うことを目指していますので、学部3年生までとは異なって忙しい日々を過ごしますが、共に成長できることを約束します。
学部4年生

 自らの力で研究を遂行し、研究成果としてまとめるための基礎的な能力を養うことを目的とします。自立した成人として研究=仕事を遂行できるようになることを目指します
 
・文献検索して、従来の研究成果を理解できる。
・研究計画を立案できる。
・自分自身の力で研究を進めることができる。
・学術的なディスカッションを行うことができる。
・研究成果を美しくまとめ、発表できる。

大学院修士課程
 4年生で身につけた研究能力をベースとして研究活動をさらに進め、対外的に研究成果が発表できる素養を身につけることを目的とします。学会発表や論文発表など、研究成果を世界に向けて発信することを目指します
 
・率先して研究活動を進めることができる。
・後輩の研究活動について助言し、指導できる。
・わかりやすい学会発表を行い、発表の場でも学術的なディスカッションを行うことができる。
・国際的な学術論文を執筆し、掲載できる。

大学院博士課程
 自由に研究活動を行い、自立した研究者として活躍するための能力を身につけることを目的とします。研究者として、教員と対等な立場から研究を進めていくことを目指します
 
・指導教員と同じレベルの研究活動を行うことができる。
・日本学術振興会特別研究員として科学研究費補助金を受領しながら研究活動することを目指す。

 
 
 
ここでは、研究室でどのように研究活動を進めていくのか、ご紹介します。 
 
楽しく実験する
どちらかというと、流行は追わない研究を行っています。まずは遊び心で実験して、不思議な現象やこれまでに無い物質を見つけようと研究を進めていきます。小学生が感じるような素朴な疑問と遊び心がとても大切だと思っています。研究が思い通りにうまくいかなくても、着眼点を変えると実はとても面白い発見をしているのかもしれません。どんなことが起きるのか、なぜそうなるのか、時間をかけて深く追求するように努めています。
 
勉強会(ゼミ)に参加する
研究室では、定期的に勉強会(ゼミ)を行っています。最先端の学術論文の研究紹介を行う「雑誌会」、研究の進捗状況を議論する「研究報告会」があります。プレゼン資料の作り方、ディスカッションなど、これからの社会生活にとても重要な要素が詰まっています。 ぜひ積極的に議論に参加してください。研究の議論の場では、教員も学生も関係ありません。ぜひ教員を唸らせてください。
 
学会で研究発表を行う
ある程度の研究成果が出たら、積極的に学会で口頭発表・ポスター発表するようにしています。最近参加している学会は、表面技術協会、日本金属学会、電気化学会、軽金属学会、The Electrochemical Society(アメリカ電気化学会)などです。学生のみなさんが主体的に発表を行い、私は鞄持ちで付いていく場合が多いです。さまざまな先生方から貴重な助言をいただくとともに、他研究者の発表を拝聴し、刺激を受けます。修士課程および博士課程の学生は、平均すると年に2〜4回の学会発表を行い、全国・世界を飛び回っています。
 
学術論文を投稿する
どの学生の研究であっても、可能な限り国際的な学術雑誌に論文を投稿するように努力しています。なかなかうまく採択されないときもありますが、大丈夫、頑張れば最終的には必ず採択されます。一生懸命行った研究が認められて、自分の名前とともに世界中に公表されるのは、とても素晴らしい経験です。ぜひ、研究論文の投稿を目指してください。最近投稿している主な学術雑誌は、表面科学の専門誌であるApplied Surface Science、アメリカ電気化学会のJournal of The Electrochemical Society、国際電気化学会のElectrochimica Actaなどがあります。
 
産学連携を行う
最近は積極的に産学連携を行うようにしています。北大の産業創出部門:次世代アルミニウムイノベーション推進部門にも参画しています。これまでの基礎研究成果がさらに進化して社会の発展に寄与するよう、実用性を提案するとともに、知的財産権を取得しています。
 
 
進路
ほとんどの学生は大学院に進学します。これまでに博士課程に進学した学生は全員、日本学術振興会特別研究員や財団の特別奨学生に採用され、返済不要の奨励金や奨学金を毎月支給されるとともに、これとは別に研究資金も受領しながら研究を進めています。もし将来的な希望がありましたら、早めにご相談ください。
 
 
左から、静岡県浜松市(表面技術協会ARSコンファレンス)、ワシントンDC(アメリカ電気化学会)、ポプラ並木の前で  
 
 
 
 
 
研究室では、学生全員に専用のパソコンおよびモニターを用意しています。Windows PC(Core i7 or Core i9)/ Mac(M1 or M2)どちらでも使用できます。グラフ作成ソフト、画像解析ソフト、動画編集ソフトなど研究に使用する各種ソフトも用意しています。
研究室内に5台のWi-Fi6無線LANおよび2台の1000BASE-Tスイッチングハブを増設し、高速のオンライン環境を整えました。
教育・研究活動に使用する各種文房具類も完備しています。
現在は、 修士課程5名、学部4年生2名、研究生1名の計8名の学生とともに研究活動を行っています。
 
 
一緒に、新しい電気化学・材料表面科学の扉を開き、世界と勝負する研究を行いましょう!
 
志ある学生の来研をお待ちしています!
知的探究心の大志を抱け!