特集・研究紹介

工学研究院・工学院の
先駆的な技術を発信します。

No.433 2023年12月号

女性研究者のチャレンジ!

特集 02

コエンザイムQ10搭載ミトコンドリア標的型ドラッグデリバリーシステムの開発 Development of a mitochondrial targeting drug delivery system loaded coenzyme Q10

目の前の患者さんだけでなく世界の患者さんと繋がる研究職に

応用化学部門 マイクロシステム化学研究室 助教
日比野 光恵

[PROFILE]

出身高校
埼玉県立浦和第一女子高等学校
研究分野
薬物送達学、製剤学
研究テーマ
ミトコンドリア標的型ドラッグデリバリーシステムの開発

ミトコンドリアに薬を運ぶナノカプセル

細胞内に存在するミトコンドリアはエネルギーを産生すると同時に、他の細胞小器官とコミュニケーションを取ることで細胞死などを制御する生命活動に必要不可欠な存在です。ミトコンドリアに元気がないと、私たちの身体は老化が進んだり、糖尿病やアルツハイマー型認知症などの病気に罹りやすくなるため、ミトコンドリアを標的とした創薬開発が注目されています。コエンザイムQ10(CoQ10)は、強力な抗酸化作用やエネルギー産生能を活性化させる作用を持ちます。しかし、CoQ10は極めて水に溶けにくい性質があるため、生体に吸収されやすい製剤工夫が必要です。

そこで私たちは、ミトコンドリアに薬を運ぶナノメートルサイズのカプセル「MITO-Porter(マイトポーター)」(北海道大学薬学部山田勇磨教授が開発)にCoQ10を搭載したCoQ10-MITO-Porterの開発を目指しました。

実習・試験勉強・研究活動全力で取り組み笑顔の今が

従来の方法では均一なサイズのCoQ10-MITO-Porterを作るのは難しく、実用化で求められる大量調製もできませんでしたが、私たちの研究室で開発したマイクロ流体デバイス“「iLiNP(アイリンプ)デバイス(invasive Lipid Nanoparticle Production device)」”は、ナノカプセルのサイズを制御でき、連続製造が可能です。この技術と組み合わせることで、CoQ10-MITO-Porterの安定的製造に成功しました。最近の成果ではミトコンドリアの酸化ストレスが原因となって発症する薬剤性肝障害のマウスにCoQ10-MITO-Porterを投与し、治療効果が認められました。

私はもともと「資格があれば女性も自活できる」という思いから薬剤師を目指しました。卒業研究をしながら薬剤師になるための実習・国家試験勉強との両立は大変でしたが、学部時代の投稿論文が国際学術雑誌の表紙に選出された時の感動は今でも忘れられません。薬剤師は目の前の患者さんに向き合いますが、創薬開発ならば世界中の患者さんを救える可能性に惹かれ、研究の道に進もうと決意しました。目の前の一つ一つに全力で取り組めば必ず報われる時が訪れます。人との出会いを大切に、失敗を恐れず、色々なことに挑戦してください。

図1 コエンザイムQ10搭載ミトコンドリア標的型ナノカプセル(CoQ10-MITO-Porter)のコンセプト Figure 1 : Concept of CoQ10-MITO-Porter, a mitochondrial targeting nanocapsule loaded coenzyme Q10

Technical
term

マイクロ流体デバイス
樹脂やガラスなどの基板に流路を形成し、液体や液体中を流れる微粒子をマイクロスケールで自在に運べるチップ型の機能部品。