特集・研究紹介

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先駆的な技術を発信します。

No.433 2023年12月号

女性研究者のチャレンジ!

特集 01

福島第一原子力発電所の廃炉で発生する廃棄物をどう管理するか How to manage waste from decommissioning of Fukushima Daiichi Nuclear Power Station?

視点の枠が広がれば異なる最適解が見えてくる

応用量子科学部門 原子力環境材料学研究室 准教授
渡邊 直子

[PROFILE]

出身高校
神奈川県立湘南高等学校
研究分野
放射性廃棄物処分システム、原子力施設の廃止措置
研究テーマ
福島第一原子力発電所の廃炉で発生する放射性廃棄物管理、コンクリート中の放射性核種移行のメカニズム

放射性廃棄物の管理を含めた廃炉プロジェクトに参画

東北地方太平洋沖地震とその後の津波による福島第一原子力発電所(1F)の事故から10年以上が経過しています。アルプス処理水の海洋放出が始められるとともに、ロボットによって原子炉格納容器内の機器・構造物の損傷状況が明らかになりつつあるなど、廃炉は着実に進んでいます。施設の解体・撤去、汚染除去、廃棄物処理などを行う廃炉プロジェクトからは、放射性廃棄物が発生します。廃炉と廃棄物管理は表裏一体で、発生する廃棄物をどのように処理し、保管・処分するのかといった方策を検討することは、原子力発電所を安全かつ合理的に解体・撤去する活動の一部です。

発生から処分までのシナリオを分析

1F廃炉の困難さに、どのような放射性核種がどこにどれだけ分布しているのか、事故により機器や構造物がどのような状況になっているのかが十分に明らかでないということが挙げられます。そこで、原子炉建屋、タービン建屋の重量の95%を占めるコンクリートを対象に、施設の汚染状態を予測した上で、どのような廃棄物がいつ、どれくらいの量発生するのか、それらはどのような処理・保管・処分ができるのか、廃棄物管理シナリオを想定してそれぞれの利点や課題を整理しています。汚染状態の予測は、現場から採取されたサンプルの分析結果や過去の事故炉に関する情報、そして自分たちでセメントサンプルを作って実験した結果などに基づいて実施します。処分までの道筋は、正解が一つではありません。安全性やコスト、プロジェクト完了までの時間を含めた実行可能性など、さまざまな視点を考慮し、よりバランスの取れた判断ができるよう、廃棄物管理シナリオを分析していきたいと考えています。

私はもともと土壌汚染を専門としていましたが、2011年3月の事故を機に、現在の研究に携わっています。

エネルギーの利用やその後始末を含めた地球環境の負荷低減のため、女性も男性も、日々の暮らしを構成する要素を楽しみつつ、広い視点を持ってバランスの取れた最適解に向けた研究を膨らませていければと思います。

図1 事故発生からエンドステートまでのタイムラインと廃炉のそれぞれの段階で発生する廃棄物 Figure 1 : Timeline from the accident to the end-state and waste generated in each step of decommissioning

Technical
term

放射性廃棄物
放射線核種で汚染した廃棄物。低レベルと高レベルとに大別され、浅地中、中深度、地層と放射能レベルに応じて処分される。